「肺がんの生存率が低い理由」をご存知ですか? 原因・早期発見のポイント


「肺がんの生存率が低い理由」をご存知ですか? 原因・早期発見のポイント

日本におけるがんの部位別の死亡率で男性1位・女性2位となっている「肺がん」。そんな肺がんですが、ほかのがんと比べて生存率が上がらないのはなぜなのでしょうか?

肺がんはどんな病気? 医師が徹底解説!

Q. はじめに、肺がんがどのような病気か教えてください。

A. 肺がんとは、気管支や肺胞の細胞が何らかの原因でがん化したものです。肺がんには、大きく分けて「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」の2種類があり、それぞれ性質や治療法が異なります。

Q. 「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」の違いは何でしょう?

A. 非小細胞肺がんは、肺がんの中で最も一般的な種類で、「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」の3つの組織型があります。非小細胞肺がんは比較的ゆっくり進行する傾向にあります。他方、小細胞肺がんは進行が早く、ほかの臓器にも転移しやすいのですが、薬物療法や放射線治療が効きやすいのが特徴です。

Q. 肺がんの主な原因は何ですか?

A. 肺がんは、喫煙が最も大きな要因とされていますが、非喫煙者でも肺がんになる人や、ヘビースモーカーでも肺がんにならない人もいるため、明確に「これが原因」とはっきりとはわかっていないのが現状です。しかし、喫煙が肺がんリスクを高める要因であることは間違いありません。かつての日本では男性の喫煙率が非常に高かったため、肺がんのリスクが高いとされています。他方、非喫煙者の肺がん患者も増加しており、その原因は肺がん遺伝子異常に起因するとされています。

Q. 肺がんの症状についても教えてください。

A. 肺がんの症状は、初期ではほとんど現れないことが多く、進行するにつれて咳や息切れ、胸痛、体重減少、声のかすれなどが見られます。これらの症状、とくに咳や息切れは、風邪や肺炎などほかの呼吸器疾患とも共通しているため、がんとは思わずに経過してしまうことも多くみられます。

肺がんの診断や治療についても教えて!

Q. 肺がんはどのように診断されますか?

A. 胸部X線などでなんらかの異常や気になる所見で発見される、というケースがほとんどです。そこで、さらなるレントゲン検査やCTスキャンなどの画像検査で詳細を確認し、異常が見つかった場合は、より詳しい検査として気管支鏡検査や肺生検がおこなわれ、がん細胞の有無を確認するという流れが一般的です。

Q. 肺がんが発見された場合、どのように治療が選択されるのでしょうか?

A. 先ほど解説した気管支鏡検査肺生検などにより、肺がんの種類や進行度が特定されます。また、検査により転移の有無も確認できるので、それらを踏まえて適切な治療の選択肢が提案され、患者さんのニーズやご希望などを聞きながら治療方針が決められていきます。

Q. 例えばどのような治療法がありますか?

A. 別のところからの転移ではなく、原発性の肺がんというところで述べると、主な治療法としては「手術療法」「放射線療法」「化学療法」「免疫療法」があります。早期の非小細胞肺がんでは手術が有効ですが、進行がんや小細胞肺がんでは化学療法や放射線療法が中心となります。最近では、がん細胞の特定の分子を標的とする「分子標的薬」や「免疫チェックポイント阻害薬」などの新しい治療法も導入されています。

Q. 抗がん剤と分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の違いを教えてください。

A. まず抗がん剤は、がん細胞の増殖を抑える薬です。分子標的薬は、簡単に言うとがん細胞を増やす分子に働きかけて、がん細胞の増殖を妨げる薬で、免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞によってあまり働かなくなっている免疫機能を元に戻すことによって、もともと体に備わっている免疫の働きでがん細胞を攻撃させる薬です。

なぜ肺がんの生存率が低いのか 生存率を上げるためにできることは?

Q. 肺がんの生存率は、ほかのがんと比べて低いと聞きました。その理由は何なのでしょう?

A. 理由としてはいくつかあります。
早期発見の難しさ
先ほども述べたように肺がんは初期症状がほとんどないため、発見時には既に進行していることがほとんどです。
治療の困難さ
進行した肺がんの場合、一般的に手術の適応はなく、治療の選択肢が内科的治療に限られます。
転移の頻度が高い
肺がんはほかの臓器に転移しやすい性質があります。転移があると治療がより困難となり、生存率が低下します。
診断技術の限界
ほかのがんに比べて、肺がんの早期診断に特化した技術や手法がまだ限られています。乳がんのマンモグラフィや大腸がんの内視鏡検査のような効果的なスクリーニング方法が十分に普及していないため、早期診断が難しいのです。
年齢層
肺がんは高齢者に多くみられます。高齢者は肺がんだけでなく、ほかの健康問題を抱えていることが多く、これが治療の効果や耐性に影響を与えるため、生存率が低くなる要因となります。

以上の要因が組み合わさり、肺がんはほかのがんと比べて生存率が上がりにくい状況を生んでいます。

Q. 肺がんの生存率を上げるためにはどうしたら良いでしょうか?

A. 早期発見、早期治療ができれば生存率は大きくアップします。早期発見のためには、症状が出る前の定期的ながん検診が重要になります。

Q. やはり、早期発見が大事なのですね。

A. そうですね。しかし、肺がんの治療も年々進歩しており、すでに肺がんと診断された患者さんにも明るい兆しが見えています。遺伝子変異の検出が簡便になってきていることで分子標的治療薬に繋げやすくなってきていますし、遺伝子変異が陰性の場合でも免疫治療が奏功する可能性があり、奏功した場合は進行期でも大幅な改善が期待できます。


宮澤 知行(宮澤内科・呼吸器クリニック)

鹿児島大学医学部卒業後、東京慈恵会医科大学外科学講座助教を経て聖マリアンナ医科大学呼吸器外科講師となる。2019年より、宮澤内科・呼吸器クリニック勤務。医学博士。日本外科学会外科専門医。呼吸器外科専門医合同委員会(日本呼吸器外科学会・日本胸部外科学会)呼吸器外科専門医。産業医。


引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より

※記事内容は執筆時点のものです。
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