高齢者の「誤嚥性肺炎」は寝ている間に起きているって本当? 寝る前のケアが重要

高齢者に多い誤嚥性肺炎は、食事中や食後だけでなく、実は寝ている間にも起こることがあります。寝ている間に起こる誤嚥性肺炎を予防するには、どうしたら良いのでしょうか?
肺炎とは? 医師が解説
Q. 肺炎について教えてください。
A. 肺炎とは、文字通り肺の炎症です。何らかのきっかけで肺に細菌やウイルスなどの感染が起こり、肺にある「肺胞」という部分に炎症が起こってしまうのです。
Q. どんな症状が出るのですか?
A. 症状やその程度は、人や原因微生物によって異なりますが、発熱や咳、たん、息切れなどが主な症状です。肺の主な役割は、酸素を取り込み二酸化炭素を吐き出す「呼吸」ですので、肺炎になると、呼吸が苦しくなったり、呼吸が速くなったりして、重症化すると入院が必要になることもあり、高齢者は特に注意が必要です。
Q. それはなぜですか?
A. 年齢とともに、体の免疫が低下してしまうことが多いからです。高齢者は、肺炎となっても発熱や咳、たんなどの症状が若い人ほど顕著に表れず、気づかないうちに重症化することがあるのです。高齢者の場合は、「いつもより活気がない」「食欲がない」といった症状のみでも、医療機関に相談することをお勧めします。さらに知っておいてほしい概念として「誤嚥性肺炎」があります。
誤嚥性肺炎について教えて 寝ている間に起こるってホント?
Q. 誤嚥性肺炎とは何ですか?
A. 唾液や飲食物などが誤って気管に入ることを「誤嚥」と言います。そして、それらと一緒に細菌などが肺に入り込んで起こる肺炎が誤嚥性肺炎です。私たちの体は、誤って唾液や飲食物が気管に入ってしまった時、咳き込んで外に出すようになっているのですが、加齢とともにその力が弱くなってしまいます。
Q. 知らないうちに誤嚥してしまうのですね。
A. そうなのです。もう一つ重要なこととして知っておいてほしいのは、高齢者に起こる誤嚥性肺炎のほとんどは、食事直後に起きるのではないということです。夜、寝ている間に口の中の食事の残りかすや、唾液に混ざった雑菌が少しずつ気管に入っていって肺炎を起こすのです。
Q. それはなぜですか?
A. 眠っているとき、人の嚥下機能は低下するからです。加えて、眠っていなくても、横になっているだけで飲み込む動作はしにくくなります。布団かベッドに横になって、水やプリンなどを飲み込んでみるとよくわかると思います。
Q. 確かに飲み込みにくそうです。
A. 可能であれば、水とプリン両方で試してみるといいでしょう。「横になっていると飲み込みにくい」というだけでなく「水はプリンより飲み込みにくい」という事も実感できると思います。
高齢者の誤嚥性肺炎を防ぐには? 寝る前のケアと食事と漢方
Q. 寝ている間の誤嚥性肺炎を防ぐにはどうしたら良いのでしょうか?
A. 寝る前に、口の中にある食べ物の残りかすや細菌をできるだけ綺麗にしておくことが大事です。高齢者、特に要介護高齢者の方は、食べた後と寝る前にきちんと口腔内洗浄、つまり歯磨きをしていただきたいですね。
Q. 基本的なことですが、大事なのですね。
A. 全国の歯科医で行ったある研究によると、きちんと歯科医の指導の下に、寝る前に歯磨きをした要介護高齢者では、それらをしなかった同じ要介護高齢者に比べて、肺炎の発生率が半分に減ったのです。
Q. それはすごいですね。ほかに注意しておかなければならないことなど、ありましたら教えてください。
A. 高齢化にともない認知症の方も増え、妄想や幻覚、昼夜逆転などの「BPSD(認知症の行動・心理症状)」の患者さんが増えてきています。BPSDに対して処方される薬の一つである「抗精神病薬」を服用している高齢者も多いかと思いますが、この薬にはドーパミンを抑える作用があるため、嚥下反射が弱くなり、誤嚥を起こしやすいと言われています。最近はさまざまな医療機関が、このような抗精神病薬の使用に踏み切る前に抑肝散(よくかくさん)や加味帰脾湯(かみきひとう)など、まず漢方薬を試すことが多くなりました。これらの漢方薬は現代医学的な治験でBPSDに有効との結果が出ているからです。また、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)という漢方薬はこのようなフレイルの高齢者の肺炎を減らしたというデータもあります。
Q. 漢方も有用なのですね。
A. 一方、食事の中に唐辛子を活用することも薦められます。なぜなら唐辛子の辛味成分であるカプサイシンが嚥下反射、咳反射を改善することは昔から有名だからです。粉唐辛子をうっかり吸い込めば誰でも咳き込みますが、つまりそれこそ「カプサイシンは嚥下反射、咳反射を誘発する」という分かりやすい例です。高齢者施設で出されるカレーは、「これがカレーか?」と思うぐらい辛みがありませんが、もう少しカレーらしい辛みを付ければカレーは立派な誤嚥性肺炎予防食になるでしょう。

岩崎 鋼(あゆみ野クリニック)
宮城県石巻市あゆみ野クリニック院長。体調に合わせた保険診療内での煎じ薬治療を実践。元東北大学附属病院漢方内科臨床教授。元日本東洋医学会東北地区専門医制度委員長。元日本老年医学会評議員。東北大学医学部出身、老年内科で医学博士取得。その後漢方内科に移籍。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
※記事内容は執筆時点のものです。
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