【咳・痰が気になる人必見】急増する「肺非結核性抗酸菌症」の症状と対処法


【咳・痰が気になる人必見】急増する「肺非結核性抗酸菌症」の症状と対処法

結核菌以外の抗酸菌が肺に感染して起こる病気のことを、肺非結核性抗酸菌症といいます。治療は年単位となるケースも多く、根気良く治療に取り組むことが必要です。「咳が長引いている」「汚い痰が続く」といった場合はもしかしたら肺非結核性抗酸菌症かもしれません。

肺非結核性抗酸菌症とは?

Q. 肺非結核性抗酸菌症とはなんですか?

A. 肺非結核性抗酸菌症とは、非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)による肺感染症のことをいいます。「抗酸菌」とは、酸で脱色できない性質を持つ菌であることから名づけられました。その代表は結核菌です。非結核性抗酸菌とは文字通り「結核菌以外」の抗酸菌のことで、現在190種以上が知られています。肺非結核性抗酸菌症の原因の多くがMAC(Mycobacterium avium complex)と呼ばれるタイプの菌で、MACによる肺感染症を特に「肺MAC症」と呼んでいます。

Q. どういう感染経路を辿るのですか?

A. 基本的に非結核性抗酸菌は身の回りの環境中に広く生息しています。そのため感染ルートも幅広いと考えられています。

Q. 特にどのようにして感染することが多いのですか?

A. 特に多いのは水回りです。例えば、患者さんの痰から検出された菌と、患者さん宅の浴室ぬめりやシャワーヘッド、浴室の排水溝で検出された菌が完全一致したという研究結果があり、浴室は感染経路の一つと考えられています。

Q. 人から人へ感染することはあるのですか?

A. いいえ。人から人へ感染することは基本的にありません。

肺非結核性抗酸菌症の初期症状とは?

Q. 肺非結核性抗酸菌症の初期症状には、どのようなものがありますか?

A. 多くの場合、初期では自覚症状がありません。しかし、年単位で病気が進行すると、咳や痰が長く続くようになります。やがて、痰の量が増え、色が黄や緑になります。それから血痰や喀血(かっけつ/咳とともに血が出ること)が見られるようになり、もっと進行すると痩(や)せが進んでしまったり、息苦しさを覚えたりするようになります。

Q. どのような機会に見つかることが多いのですか?

A. 肺非結核性抗酸菌症は、胸部レントゲン検査やCT検査などによって見つかることが少なくありません。例えば、たまたま受けた検診や人間ドックで見つかった、という方は多いです。

Q. 「たまたま」ということもあるのですね。

A. その一方、検診などで肺非結核性抗酸菌症が疑われても、大したことがないと様子見になってしまうことがあります。確かに、軽い所見なら翌年の再検査でも良いのですが、そのまま何年も放置されると、取り返しがつかないほどに悪化してしまうことはありえます。また患者さん側でも、「ずっと咳と痰が続くけれど、自分は気管支が弱いから仕方がない」「汚い痰が何年も出ているけれど慣れてしまった」と気にしないケースも多く見受けられます。しかし、そうした状態を放置すると病気が進行してしまい、「病院を受診した際には、ひどく重症化していた」ということになりかねません。

Q. どのような人に多く発症するのですか?

A. 中高年の痩せ型の女性に多く見られるとされています。なぜ女性に多くみられるのかは、わかっていません。昔は「女性は男性に比べて咳を我慢しがちだから」「女性の方が風呂場など水回りを掃除する機会が多いから」などと言われていましたが、本当のところはまだ明らかにされていません。しかし、日本では研究が進みつつあり、いずれ解明されるのではと期待しています。

Q. 放置すると、どうなるのですか?

A. 一般的に、肺非結核性抗酸菌症は緩やかに進行します。5年や10年の単位で進行して、肺に穴が空いたり、気管支が拡張した状態(気管支拡張症)になったりすることがあります。気管支拡張症とは慢性的な炎症で気管支が拡がってしまった状態をいいます。こういった肺の空洞や拡張した気管支には、菌がたくさん生息してしまいます。そのため菌が肺の中で拡がっていく足がかりとなり、どんどん病気が進行してしまいます。さらに進行すると痩せが進んで痰を出す筋力も衰えたり、呼吸も難しい状態になったりすることで、命を落としやすくなります。

肺非結核性抗酸菌症の治療と予防

Q. どのような治療が行われるのですか?

A. 一般的に、3種類の飲み薬を用いた抗菌薬治療が行われます。なお、お薬により尿がオレンジ色になりますが、無害です。一方、注意すべき副作用として食欲不振、視力低下、肝機能や腎機能障害などがあり、定期的な受診と採血チェックが必要になります。2年間くらいの長期服薬が必要になりますが、治療初期に副作用が強くなければ、あとは軌道に乗って問題なく治療を終了できることも多いです。特に病気が進んでいない人は週3回の服薬で十分なため、副作用が軽くて済むこともあります。

Q. 再発することもあるのですか?

A. 残念ながら、再発するケースも少なくありません。一度かかった方は、再発しやすい病気と言われています。そのため治療が終了したあとも、定期的なレントゲン検査が望ましいです。

Q. どのように予防すれば良いのでしょうか?

A. 浴室の換気・乾燥を保つ、シャワーヘッドを外し清掃する、園芸はしないといったことなどでしょうか。ただ、これらを行うことでどれくらいの予防効果があるのかは、まだよく分かっていません。

Q. ほかに日常生活で気をつけることはありますか?

A. この病気に限ったことではありませんが、呼吸器疾患全般の予防という観点からいえば、タバコを吸わない、きちんと健診でレントゲン検査を受ける、一定以上の年齢になったら肺炎予防ワクチンを打つ、筋力が低下しないようにたんぱく質摂取と適度な運動を心がける、といったことを実践していただきたいと思います。体を良く動かすなど、筋力低下予防を心がけてください。


蛸井 浩行(ふかさわ呼吸器・消化器内科クリニック)

2006年日本医科大学を卒業。同大学付属病院および千葉北総病院で呼吸器内科全般の研鑽を積み、茨城東病院で結核や非結核性抗酸菌症等の感染症診療にも従事。日本医科大学大学院で感染症研究により博士号を取得する。東京医科大学病院で講師を務め、湘南鎌倉総合病院を経て2024年ふかさわ呼吸器・消化器内科クリニック院長に。「呼吸器と内科の診療で、鎌倉の地域に貢献する」がモットー。


引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より

※記事内容は執筆時点のものです。
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