「高血圧」を放置するとどうなるかご存じですか? 脳・心臓・腎臓・目への影響を医師が解説

高血圧は日本人に非常に多い病気です。しかし、「少し高いだけだから大丈夫」「症状がないから問題ない」と考えている人も少なくありません。高血圧は自覚症状がほとんどないまま血管に負担をかけ続け、脳卒中や心筋梗塞、慢性腎臓病などの重大な病気につながる可能性があります。健診で指摘されても受診せず、そのまま放置している人も多いのが現状です。そこで本記事では、高血圧が体に及ぼす影響や放置するリスク、治療や予防のポイントについて医師に解説してもらいました。
高血圧はサイレントキラー――放置するとどんな悪影響が出るのか
Q. 高血圧とは医学的にどのような状態を指すのでしょうか? 正常血圧との違いや、数値の目安も教えてください。
A. 高血圧とは、血管の壁に慢性的に過剰な圧力がかかり続けている状態を指します。診察室での収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上の場合に高血圧と診断されます。最もリスクが低い「正常血圧」は120/80mmHg未満と定義されており、この数値を超えると段階的に血管への負担が増していきます。血圧が基準を超えて高くなるほど、脳卒中や心筋梗塞、腎臓病といった命に関わる心血管病の発症リスクが直線的に上昇するとされています。
Q. 高血圧は進行すると、体にどのような悪影響が表れるのでしょうか?
A.
自覚症状がないまま全身の血管をむしばみ、最終的に脳卒中や心筋梗塞といった、命に関わる合併症を突発的に引き起こします。これが、高血圧が「サイレントキラー」と呼ばれる理由です。
日本高血圧学会のガイドラインでも、高血圧を放置すると、脳卒中や心筋梗塞などの発症リスクが高まることが示されています。また、常に血管へ強い圧力がかかることで動脈硬化が進行するほか、腎臓にも深刻なダメージを与え、人工透析にいたる主要な原因にもなります。
症状がないからと放置せず、数値の段階で適切にコントロールすれば、心臓・脳・腎臓などに生じる致命的なダメージ(標的臓器障害)を防ぐことができます。
Q. 高血圧を放置すると、具体的にはどのような病気につながるのでしょうか?
A.
高血圧によって全身の動脈硬化が進行すると、脳・心臓・腎臓など生命維持に関わる重要な臓器に深刻なダメージを与えることになり、代表的な疾患としては脳卒中や心筋梗塞につながります。加えて大動脈の壁が裂ける「大動脈解離」、大動脈にできたこぶが破裂する「大動脈瘤破裂」、足の血管が詰まる「閉塞性動脈硬化症」など、全身の重篤な血管病を誘発します。
さらに近年の研究では、微小な脳梗塞の多発や脳血流の低下により、認知症の発症リスクが高まるとも報告されています。これらの病気は命に関わるだけでなく、重い後遺症によって生活の質(QOL)を著しく低下させるリスクがあります。だからこそ、日頃からの早期かつ適切な血圧管理が不可欠なのです。
Q. 高血圧と脳や心臓以外の臓器との関係について教えてください。
A.
高血圧の影響は脳や心臓にとどまらず、全身の血管網を通じて「腎臓」や「目(網膜)」など、多くの臓器に深刻な障害を及ぼします。とくに腎臓は微細な血管の集合体であるため、血圧の影響を強く受けます。高血圧による動脈硬化が進むと、腎臓のフィルター機能が破壊され、結果として慢性腎臓病から人工透析へといたるリスクが著しく高まります。
また、目の奥にある網膜の血管がダメージを受けると、「高血圧性網膜症」を引き起こす恐れがあります。進行すれば眼底出血や視力低下、最悪の場合は失明にいたる危険性も伴います。実際に、高血圧の人は正常な人に比べて、先述した腎不全や網膜症の発症率が高いことがデータでもわかっています。症状のないまま全身の臓器がむしばまれていくため、目や腎臓を守るという観点からも厳格な血圧管理が必要です。
「自分は大丈夫」は禁物 受診のタイミングと放置リスク
Q. 高血圧はなぜ症状に気づきにくいのでしょうか?
A.
血管に圧力がかかっても、臓器が限界を迎えるまでは、代償機構(体が負担に適応しようとする仕組み)によって機能を維持できるからです。血管には神経が通っていないため、動脈硬化がどれほど進行しても内側からの痛みや違和感を覚えることはありません。
日本高血圧学会のガイドラインや疫学調査のエビデンスでも、頭痛やめまいといった症状が表れる時期は、血圧が極端に上昇した急性的な局面か、すでに合併症が発症した段階であると報告されています。日常の軽微な体調不良と区別がつかないため放置されやすい傾向にあります。健診での指摘を軽視せず、家庭血圧を測定して客観的な数値で把握してください。
Q. 「この数値が出たら病院に来てほしい」という判断基準はありますか?
A.
日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025」において、受診すべき高血圧の診断基準は、診察室血圧で140/90mmHg以上、家庭血圧で135/85mmHg以上と定められています。改訂によって、目指すべき降圧目標(血圧を下げる目標値)がさらに厳格化されました。全年齢で130/80mmHg未満(家庭血圧125/75mmHg未満)に統一された点がポイントです。
リラックスした環境での家庭血圧のほうが将来の脳卒中リスクをより正確に予測できるというエビデンスがありますので、家庭血圧で135/85mmHg以上が続く場合は、高血圧が疑われるため受診を検討してください。一方、治療中の降圧目標は、原則として家庭血圧125/75mmHg未満が目安とされています。
Q. 定期健診での「要経過観察」を数年放置し続けると、どれほどのリスクがあるのでしょうか?
A. 定期健診の「要経過観察」は決して安全宣言ではなく、高血圧を数年単位で放置すると、血管の老化(動脈硬化)が不可逆的に進行します。「症状がないから来年でいいや」という数年の先延ばしが、命やQOLを奪う合併症へ直結するため、速やかな受診が必要です。
今日から始められる――高血圧の治療と生活習慣の改善
Q. 高血圧と診断された場合、どのような治療が行われるのでしょうか?
A.
高血圧治療は、生活習慣の修正と患者さん一人ひとりの病態に合わせた薬物療法を組み合わせて段階的に進めます。第1選択薬としては、カルシウム拮抗薬(血管を広げて血圧を下げる薬)、心保護・腎保護作用に優れたARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)やACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、利尿薬などが広く用いられます。
これらの薬で目標値(家庭血圧125/75mmHg未満)に達しない場合や、心不全・慢性腎臓病などの合併症がある場合には、それぞれの病態に配慮した薬剤が選択されることもあります。適切な薬剤調整が脳卒中や心血管病の発症率を低下させると臨床試験で示されており、副作用に配慮しながら安全に降圧を図ります。
Q. 薬を使わずに血圧を下げられるのでしょうか?
A. 薬を使わずに血圧を下げる「生活習慣の修正」は、すべての高血圧治療の基盤であり、組み合わせれば10mmHg以上の強力な降圧効果が示されています。最も重要な食事療法の柱は「減塩」で、1日6g未満を目標とし、だしやスパイスを活用して塩分を控えることで平均約5mmHgの降圧が期待できます。さらに、野菜・果物を積極的に摂り、飽和脂肪酸を控える「DASH食(高血圧に有効とされる食事パターン)」を組み合わせると、より優れた降圧効果が得られます。
Q. 運動についてはいかがでしょうか?
A. 運動療法では、ウォーキングや軽いジョギング、水泳などの有酸素運動が効果的です。「ややきつい」と感じる強さで1日30分以上、または週150分以上定期的に行うと、血流が改善し約2〜5mmHg血圧が下がります。運動療法に加え、BMI(体格指数)25未満を目指す適正体重の維持や節酒も並行します。軽症であれば生活習慣の修正だけで薬が不要になるケースも多いため、患者さんのライフスタイルに合わせた無理のない改善プランを提案しています。
Q. 早期に受診・治療を始めることで、どのような変化や改善が期待できますか?
A.
高血圧を早期に発見し、速やかに治療を開始すれば、血圧の数値を下げるだけでなく、将来の生活の質を大きく向上させられます。初期段階で適切なコントロールを始めれば、脳卒中、心疾患リスクを減少させられると報告されています。さらに、慢性腎臓病による人工透析への移行や、将来の認知症発症リスクを食い止めることができます。
早期であればあるほど、薬を使うとしてもごく少量で済むケースが多く、生活習慣の修正だけで正常血圧を維持できる可能性も十分にあります。「定期健診で少し高めと言われたけれど、どこも痛くないし元気だから……」と受診を迷っている人は非常に多い傾向にあります。しかし、医療機関の受診は5年後・10年後も今と変わらず健やかな毎日を送るための未来への投資です。「経過観察」の段階での検討をおすすめします。
津田 泰任 医師(百合ヶ丘つだ内科心臓不整脈クリニック)
百合ヶ丘つだ内科心臓不整脈クリニック 院長。2005年山口大学医学部医学科卒業後、福岡和白病院にて初期臨床研修を行う。川崎幸病院では循環器内科医長、総合診療部救急部医長、不整脈電気生理グループ長を歴任し、「断らない救急」を掲げ救急医療と循環器診療に従事。横浜新都市脳神経外科病院、AOI国際病院循環器内科 不整脈先端治療センター医長などを経て現職。生活習慣病診療からカテーテル治療、不整脈治療まで幅広く対応している。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本不整脈心電学会不整脈専門医。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
※記事内容は執筆時点のものです。
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