かみ合わせは「全身の健康」や「心のケア」に関係があるって本当?


かみ合わせは「全身の健康」や「心のケア」に関係があるって本当?

一般には、「歯と歯の当たる面積が最大化した状態」をもって、「よく噛めているかみ合わせ」というそうです。しかし、特定非営利活動法人日本咬合学会は異なる見解を示しています。はたして、かみ合わせとは何を指し、私たちの心身にどのような影響をもたらすのでしょうか。

あごのズレによって現れる全身への影響

Q. かみ合わせは、単なる「歯の問題」では終わらないと聞いたことがあります。

A. 私が師事した大阪大学名誉教授の丸山剛郎先生は、「丸山咬合医療」をご提案されています。今回は、その中身の一部を紹介させていただきます。丸山咬合医療の主たる観点は、「下顎骨(あご)がズレると全身のバランスを崩し、その結果、体に様々な症状が現れる」というものです。

Q. なぜ、あごのズレが体の様々な症状と関係しているのでしょうか?

A. あごは、顎関節を介して筋肉や靭帯で頭に固定されてぶら下がっているため、あごの位置が正しくないと頭の位置のズレや傾きを生じさせるからです。そして、背骨の首の部分の配列、胸や腰の骨のゆがみなど、体全体のバランスを崩していきます。それが原因で、全身に色々な症状を生じさせるというわけです。

Q. なるほど。では、よいかみ合わせとは、どのような状態なのでしょうか?

A. かみ合わせにはいくつか種類があります。
かみ合わせたときに、上下の歯が最も多くの部位で接触して安定している状態を咬頭嵌合位(こうとうかんごうい)といいます。また、あごの力を抜くことにより、自然に下顎が誘導されて、上下の全ての歯の間に2~3mmの隙間ができている状態を下顎安静位といいます。私達の学会では、「健康顎位」という言葉を使用しています。

Q. 「健康顎位」とは、なんでしょうか?

A. 簡単に説明すると、あごが体の中心に対して、前後・左右で正しい位置にある状態のことです。歯や顎関節のようなあごや口の局所ではなく、身体全体との関係から、あごの位置を捉えるのが丸山咬合医療の考え方です。「全身健康顎位」と呼ぶ場合もあります。

Q. 反対に悪いあごの位置とは、どのようなものですか?

A. 健康にとって悪いあごの位置とは、身体全体の形態や機能と調和していない、全体のバランスのとれていないものを指します。逆に、よいあごの位置とは、ヒトが自然に立っているとき上下の全ての歯の間に2~3mmの隙間ができる、先ほど述べた下顎安静位の状態です。この空間は、上下だけでなく、前後・左右にもあるべきです。加えて、あごが身体の中心線に対して、前後・左右で正しい位置になければなりません。あごが前や後ろ、横にずれているのは、正しい位置とはいえません。

Q. あごのズレが、体以外にも影響することはありますか?

A. はい。あごのズレによって脳への血流が減っていきます。脳に流れる血液は全血流の20%であり、1分間に750ccもの大量の血液が必要とされています。ところが、あごのズレによって血管が圧迫されると、脳への血流が阻害されます。また、脳以外の頭部にも同じことが起こり得るでしょう。総じて、必要な栄養と酸素が阻害され、脳や頭や顔などに関する様々な症状を生じさせます。逆にあごのズレを治すと、瞬時に脳への血流が増えるため、症状が緩和されることも明らかになってきました。

Q. かみ合わせによる肩こりなどの影響も、あごがズレているからですか?

A. その可能性は高いと思われます。ヒトが倒れず立っていられるのは、全身の筋肉でバランスをとっているからです。しかし、あごのズレによって姿勢がゆがむと、筋肉の無駄遣いをしています。加えて、肩や首が凝ったり、神経とつながっている抹消の部位がしびれたり痛くなったりするのです。さらには、股関節やひざなどにも影響を及ぼします。このように、あごのズレによって体の色々な部位に不調が生じてしまいます。

うつ病や認知症に似た心への影響

Q. 続いて、「心の問題」についてもお願いします。

A. あごがズレていることによって頭痛や肩こり、腰痛といった症状を引き起こすほかに、イライラする、怒りっぽい、気力がない、急に不安になる、眠れない、注意力や集中力が低下するといった精神的な不調を訴える人も少なくありません。また、心の問題で最も多くみられるのが、「うつ状態」です。

Q. あごのズレとメンタルが関係しているのは意外です。

A. うつになるきっかけは、職場や家庭での人間関係など心理的ストレスかもしれません。しかし、かみ合わせとうつは関係なさそうですが、あごのズレを治すことで症状が軽減された人もいます。また、うつは脳内の「セロトニン」の関与が大きいといわれています。あごがズレていると、先述したとおり脳への血流が阻害されるため、脳がいわゆる栄養失調となります。そして、セロトニンを作り出すことが難しくなり、うつの症状を生じるようになります。

Q. セロトニンとは、どのような物質ですか?

A. 脳内神経伝達物質の1つで、朝に目を覚まして太陽の光を浴びることにより、体内時計がリセットされ、セロトニンが活性化されます。また、セロトニンは「幸せホルモン」とも言われており、覚醒や心と自律神経のバランスを保つのに必要なものです。

Q. 自律神経の乱れは、よく聞く話ですね。

A. ヒトには「お休みモード」と「活動モード」があり、この切り替えをおこなっているのが自律神経です。自律神経が乱れると、休みたいのに眠れなかったり、仕事を頑張りたいのにやる気が出なかったりするでしょう。当然、そのことによるストレスもたまるはずです。

かみ合わせを正すには

Q. あらためて、理想的な「かみ合わせ」とは?

A. 「歯・あごの形態」、「あごの位置」、「あごの運動」の3つが正常な状態であることでしょうか。歯・あごの形態とは、歯と歯並び、あごの形のことです。あごには「三叉(さんさ)神経」という重要な神経が走っていて、上顎は知覚だけを支していますが、下顎は知覚のほかに運動や体性感覚も支配しています。あごの運動には、嚥下や発語などもありますが、下顎の三叉神経は特にかむことやあごの感覚などに関わっていると言われています。

Q. あごの位置についての説明もお願いします。

A. ヒトは直立二足歩行をおこなうようになって以来、あごというバランサーが必要になりました。あごの位置が悪いと首の骨の湾曲が異常になり、筋が緊張するため、脳への血流障害を招きます。姿勢も悪くなって、様々な体の不調を引き起こすことになります。

Q. あごの運動については、いかがでしょうか?

A. かみ合わせと健康に最も関係の深いのが咀嚼(そしゃく)ですが、これがあごの運動ということです。咀嚼は、単に食物をかみ砕くだけではなく、消化液の分泌や唾液による口の中の浄化、顔の輪郭にも関わっています。ところが、咀嚼の異常によってあごがズレてしまいかねないのです。丸山剛郎先生の研究の結果、咀嚼の異常そのものが、全身の健康に悪影響を及ぼすことも明らかになってきました。

Q. あごのズレは、どのように治すのですか?

A. まずは、患者さんの全身の健康状態を多角的に把握して、あごのズレを審査診断します。次に、正しいあごの位置(健康学位)を決定し、下顎位是正装置を作製します。これを装着して、1カ月に1回くらいの頻度で約半年ほど調整していきます。あごのズレが是正されたら、全身に健康の良いあごの位置を再度診断し、その後、クラウン・ブリッジ・義歯などの補綴(ほてつ)、歯列矯正治療などは、あごの位置が整った後に検討します。


原田 慶(フローラ歯科クリニック 院長)

日本大学松戸歯学部卒業。埼玉県内の歯科医院勤務を経た2002年、埼玉県さいたま市に「フローラ歯科クリニック」開院。カウンセリングと説明に軸を置き、患者の健康に留意した診察に努めている。特定非営利活動法人日本咬合学会認定医・東日本部会部会長。


引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より

※記事内容は執筆時点のものです。
免責事項(Medical DOCサイトへ)

医師への24時間相談サービス 詳しくは「first call」へ

このコラムを読んだ方におすすめのアプリ

医師への24時間相談サービス

相談し放題になる、「dヘルスケア」有料利用についてはこちら

健康に関するちょっとした相談にも、医師が丁寧に回答。チャットで24時間気軽に医師に相談できます。