夜になかなか眠れず寝坊してしまう…これってなんで?

いざ寝ようとしても、なかなか眠りに入れず、余計なことばかり考えてしまう。ヒツジの数は、すでに100匹を超えてしまった。また明日も、遅刻するにちがいない……。このような入眠の悩みを、医師に投げかけてみました。はたして、夜ぐっすり、朝すっきりの生活を取り戻せるのでしょうか。
起きられるけどダルいタイプか、寝過ごしてしまうタイプか
Q. 夜の寝付きが悪いのですが、改善できますか?
A. できます。入眠障害は、「睡眠リズム障害」とストレスなどでなかなか寝付けない「ストレス性不眠」が考えられます。どちらのタイプなのか判別を付けてから治療に入りましょう。
Q. 「睡眠リズム障害」とは何でしょう?
A.
生活や睡眠のリズムが通常とズレている状態のことです。たとえば、朝の4時ごろにやっと眠くなり、目が覚めたらお昼前後だったということはありませんか。下記3つの要件を満たすのであれば、睡眠リズム障害である可能性が高くなります。
①普通の人が寝るような時間(例えば夜12時前後)に布団・ベッドに入っても目が冴えて眠れない
②自然に眠りに落ちる時間が深夜〜明け方
③一度寝付けば、たいてい6時間以上連続して眠れる
Q. 後者の「ストレスなどで寝付けない不眠」タイプとは違うのですか?
A. ストレスなどで寝付けない不眠タイプは、寝付けないだけでなく、途中で何度も目が覚める、いつもよりも早く目が覚めるなど「③たいてい6時間以上、連続して眠れる」の要件を満たさないので、異なる病態といえるでしょう。寝付きが遅く、途中目覚めることなく寝坊してしまうのであれば、やはり、睡眠リズム障害だと考えられます。
Q. なぜ、睡眠のリズムがズレるのでしょう?
A. 主に夜更かしが原因とされています。睡眠のリズムには、「メラトニン」というホルモンが大きく関わっており、通常であれば、夜の9時から10時ごろに分泌が始まり、夜11時から12時ごろに自然な眠気をもたらします。そして、朝に目覚めて朝日を浴びることで、メラトニンの分泌リズムがリセットされます。再び、夜の9時から10時ごろに分泌しようと調整するのです。
Q. 夜更かしは、メラトニンが分泌されるタイミングをおかしくしてしまうということですか?
A. そういうことです。夜間にスマホやテレビなどからの強い光を浴びてしまうとメラトニンの分泌が止まってしまうのです。眠気をもたらすホルモンがでなくなっているので、布団・ベッドに入ってもなかなか寝付けなくなってしまいます。なお、こうした変調は、週末の数日、夜ふかししただけでも起こりえます。「寝だめ」などといって昼過ぎまで寝ていることも、睡眠リズム障害のきっかけになるでしょう。
Q. スマホの弊害は、至る所で耳にします。
A. たしかにそうなのですが、睡眠リズム障害は、スマホの登場以前からありました。つまり、ブルーライトに限らず、夜間に“何かに熱中していること”も、大きく関係していると考えられています。
Q. 夜になったら、あまり楽しみを追ってはいけなそうですね……。
A. 難しいですが、メリハリですよね。夜更かししたために日中の時間をロスするくらいだったら、昼間に楽しみましょう。日中の楽しみを取り戻そうと夜に頑張るのは、本末転倒な気がします。
睡眠時間は足し算できない
Q. 睡眠導入のサプリメントって、よく効くらしいですがいかがでしょうか?
A. サプリメントの主成分は動物実験などで効果が確認されたものが多いですが、人に効果が出る十分な量が含まれているかは疑問です。もし、医薬品同等の効果があるとするのなら、薬事法という法律に従い、医薬品の審査に準じたテスト・評価を受けてその効果が実証される必要があります。
Q. 寝る前の飲酒はどうなのでしょう、個人的には「効果アリ」なのですが?
A. 寝付きはいいかもしれませんが、本来の自然な眠りと違うので眠りの質を下げます。アルコールを分解するため、肝臓に負担をかけるので、朝起きても体の疲れが抜けないということも十分にありえるでしょう。また、アルコール依存症に至る恐れも考えられます。
Q. 目安として、1日、どれくらい眠ればいいのでしょう?
A. 個人差はありますが、日中に十分なパフォーマンスを得られる睡眠時間は、20〜60歳では「7時間」前後とされています。なお、「都市部に住む日本人の平均的な睡眠時間は6時間弱」という報告がありますが、これは通勤時間や残業のために睡眠時間を削った結果であり、医学的に十分ということではありません。
Q. 睡眠時間は、1日のうちで足し算してもいいのでしょうか?
A. 通勤中の居眠りなどの睡眠時間などを足してもいいのかということですよね。答えは「ダメ」です。ヒトは睡眠に入ると、最も重要なところからメインテナンスしていき、トータルして7時間前後かけて順次メインテナンスをするとされています。通勤中の居眠りや分割した睡眠では、続きからメインテナンスをするのではなく再び最初の重要な部分からメインテナンスが始まってしまうので、メインテナンスできないところが残り続けます。布団やベッドで寝ている連続した睡眠時間が5時間だとしたら、その5時間分しかメインテナンスされず、残りの部分はそのままになってしまいます。
睡眠障害のタイプによって治療方法も異なる
Q. ちなみに、病院ではどのような治療をするのでしょう?
A. 睡眠リズム障害であれば、メラトニンと同じような効果のある「ロゼレム(ラメルテオン)」というお薬を処方します。医師から指示された時間に服用し、1カ月ほどかけて、正しいリズムをつくっていきます。なお、睡眠リズム障害の方には、一般的な睡眠薬(ベンゾジアゼピン系睡眠薬)では効果が期待できません。
Q. なぜ、睡眠薬が向いていないのでしょう?
A. 間例えるなら、毎日夜11時に寝ている方へ、「今日は睡眠薬をのんで夜7時に寝てください」と言っているようなものだからです。体が眠る準備ができていない状態では通常の睡眠薬では十分な効果がでないと言われています。それよりも、自然に眠くなるような体内時計のリズムをつくることが肝要です。通常の睡眠薬の連続服用をしても、多くの場合、睡眠リズムは取り戻せません。
Q. 食欲のような体調のリズムとも関係してきそうですね。
A. そのとおりです。内臓機能も体内時計にあわせて活動しているので、睡眠薬で“頭”を寝かせても、体のリズムは狂ったままなのです。脳が目覚めても体が眠っている状態だと、食欲が出ない、吐き気やめまい、頭痛といった、いわゆる“時差ボケ”のときの体調不良と同じ症状がでます。また、朝の低血圧を訴える方がいらっしゃいますが、体が寝ているときは血圧は低めですので、血圧が低いから起きられないのではなく、体が起きていないから血圧が低いことが多いのです。
Q. その一方、ストレスなどによる不眠タイプの治療方法は?
A. ストレス性の不眠の場合は、いかに眠る前にリラックス状態をつくるかが重要です。ヨガや軽運動などでリラックスできればいいですが、それが無理なら、リラックス効果のある睡眠薬を用いることが多いですね。ただし、不眠の原因はストレス以外にもいろいろあり、一概に言えません。ストレス以外の原因に、睡眠時無呼吸症候群や、あるいは他の隠れた原因があるのか。我々が言うところの「5P」に沿って、診断を付けていきます。
Q. 「5P」について、簡単に教えてください。
A.
下記にまとめました。ご確認ください。
①ストレスなどの心理学的原因(Psychological)
②不規則な生活習慣や就寝環境といった生理的原因(Physiological)
③不安障害やうつ、アルコール依存などに伴う精神医学的原因(Psychiatric)
④体の病気などの身体的原因(Physical)
⑤服薬しているお薬や、カフェイン・喫煙などによる薬理学的原因(Pharmacological)
Q. このタイプの治療には、睡眠薬が使われるのですか?
A. まずはこの5Pに照らし合わせて、入眠を妨げている原因の改善が先決す。いずれにせよ、眠れないことの不安が、更に不眠を悪化させる原因になるので、必要に応じて睡眠薬を処方します。
Q. 睡眠薬と聞くと、副作用が心配です。
A. 安心してください。たしかにベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系といわれる睡眠薬は、依存など、副作用のリスクはあります。しかし、減薬の方法が確立されていますので、医師の指示・注意を守るようにしてください。また、寝付きにいいのか、眠りを深めるのかによって、処方するお薬も違ってきます。いずれにしても、用法・用量を守りましょう。効き目が足りないからといって自己判断で「増やす」ことが依存や副作用のリスクを高めるのでやってはいけないことです。

中村 真樹(青山・表参道睡眠ストレスクリニック)
東北大学医学部卒業、東北大学大学院医学系研究科修了。大崎市民病院、東北大学病院精神科、睡眠総合ケアクリニック代々木勤務などを経た2017年、東京都港区に「青山・表参道睡眠ストレスクリニック」開院。主に睡眠障害全般と、ストレスが原因となりうるうつ状態・不安障害・パニック障害に対する医療を提供している。日本睡眠学会専門医・評議員、日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会脳波専門医の資格を有する。日本不安障害学会、日本精神科診断学会、日本生物学的精神医学会などの会員。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
※記事内容は執筆時点のものです。
免責事項(Medical DOCサイトへ)
このコラムを読んだ方におすすめのアプリ

アクセスランキング- RANKING -
