「物忘れ」と「認知症」の違いをご存じですか? 対策や受診の目安を脳神経内科医が解説

「人の名前がなかなか思い出せない」「同じことを何度も聞いてしまう」など、物忘れが増えると、年齢のせいなのか病気のサインなのか不安になる方も多いのではないでしょうか。物忘れには、加齢によるもののほかに「認知症」や「治療が可能な病気」などが関係している場合もあります。そこで今回は、物忘れで受診すべきタイミングや検査の流れ、日常生活でできる予防のポイントについて、医師に詳しく解説していただきました。
年齢のせい? 病気のせい? 物忘れの基本を知る
Q. はじめに、「加齢による物忘れ」と「病気による物忘れ」にはどのような違いがあるのか教えてください。
A. 実際には、加齢による物忘れと病気による物忘れを明確に分けるのは簡単ではありません。認知症といっても一つの病気ではなく、「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「血管性認知症」「前頭側頭型認知症」などいくつかのタイプがあり、症状も異なります。一般には、加齢による物忘れは思い出しにくい状態である一方、認知症では出来事そのものが抜け落ちたり、生活への影響が目立ったりすることがあります。ただし、この線引きは連続的であり、自己判断だけで決めつけないことが大切です。WHOも、認知症では記憶だけでなく、思考・見当識・理解・学習・言語・判断など複数の認知機能が影響を受けるとしています。
Q. 認知症の初期症状としてよくみられる物忘れには、どのような特徴がありますか?
A. 初期には、言葉や人の名前が出てこない、日にちや場所があいまいになるといった変化がみられることがあります。しかし、こうした症状は加齢でも起こり得るため、それだけで認知症に直結するわけではありません。大切なのは、頻度が増えているか、同じことを繰り返していないか、日常生活に支障が出ていないかという点です。認知症の原因としてはアルツハイマー病が最も多く、ほかにレビー小体型認知症や血管性認知症などがあり、複数が重なる混合型もあります。認知症のタイプによって、記憶障害が前面に出る場合もあれば、注意力や幻視、歩行の変化などが目立つ場合もあるため、症状全体を見て判断する必要があります。
Q. 物忘れ以外にも、認知症の初期にはどのような症状が起こるのでしょうか?
A. 例えば、「物の形や意味が分かりにくくなる」「会話で適切な言葉が出にくくなる」「料理や手続きなどの段取りが難しくなる」「自分が今どのような状況にいるのか把握しづらくなる」といった症状がみられることもあります。また、「さっきまでしていたことを忘れる」「人や場所が分からなくなる」など、見当識に関わる変化が出る場合もあります。認知症では記憶障害に加えて、気分や行動の変化が初期から現れることがあります。つまり、物忘れがないから認知症ではないとは言いきれず、多彩な症状を知っておくことが重要です。
いつ病院へ行くべき? 受診の目安と検査の流れ
Q. 物忘れが気になった場合、どのようなタイミングで医療機関を受診すべきでしょうか?
A. 物忘れが気になり始めたら、できるだけ早めに受診することをおすすめします。特に、「同じ話を何度もする」「約束や出来事そのものを忘れる」「家族から見て以前と様子が違う」といった変化がある場合は、一度相談した方がよいでしょう。受診の際は、できればご本人だけでなくご家族など普段の様子を知る方と一緒に来ていただくのが望ましいと思います。認知機能の変化は、ご本人の自覚と周囲の印象が一致しないこともあるためですね。
Q. 「物忘れが気になる」と脳神経内科を受診した場合、どのような流れで診察・検査を進めるのですか?
A. まずは問診で、いつ頃からどのような症状があるか、ご本人とご家族の双方から詳しく確認します。そのうえで、血液検査や認知機能検査をおこない、必要に応じて心理士による詳しい評価を加えます。血液検査では、甲状腺機能低下症やビタミンB12欠乏症など、記憶障害の原因となり得る全身性の病気を調べます。さらにMRIなどの画像検査で、脳の萎縮の程度や分布、脳血管障害の有無などを確認します。認知機能評価、血液検査、脳画像検査を含む総合的な評価が重要になります。検査は1日で終わらないことも多く、結果説明まで数週間かかる場合もあります。
Q. 早期受診のメリットはどのような点ですか? また「認知症ではない」と診断された場合、ほかにどのような原因が考えられるのか教えてください。
A. 早期受診の大きなメリットは、認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)を含めて評価できる点にあります。MCIの段階で生活習慣の見直しや適切な医療につながれば、その後の経過に良い影響を与える可能性があります。また、物忘れの背景が認知症ではなく、甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症、炎症性疾患、正常圧水頭症など治療可能な病気であることもあります。年齢のせいと決めつけず、まず原因を確かめることが、適切な治療への第一歩です。
認知症は治せる? 今日からできる予防と心がけ
Q. 認知症は治療が可能な病気なのでしょうか?
A. 認知症の中には、原因によって治療や改善が期待できるものがあります。例えば、甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症、正常圧水頭症などに伴う認知機能低下では、原因に対する治療で症状が改善することがあります。一方、アルツハイマー病などでは完全に元に戻すことは簡単ではありませんが、進行を抑える治療や、早期段階での介入が重要になっています。近年は、MCIや早期アルツハイマー病を対象とした新しい治療も登場しており、診断の意義はますます大きくなっています。加えて、薬だけでなく、身体活動や生活習慣の見直し、周囲の支援体制を整えることも、認知機能を長く保つうえで重要です。
Q. 物忘れや認知症を予防するために、日常生活でできることはありますか?
A. 予防の観点で特に大切なのは、まず運動習慣を保つことです。身体活動は認知症予防に関わる重要な要素であり、運動不足は修正可能なリスク因子の一つとされています。また、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を適切に管理することも非常に大切です。さらに見落とされがちなのが、社会とのつながりです。孤独や社会的孤立は認知症のリスクを高めることが示されており、家族や友人との会話、地域活動や趣味の場に参加することは脳の健康にもつながります。
Q. 物忘れや認知症について、「これは覚えておいてほしい」という大切なポイントがあれば教えてください。
A. ぜひ覚えておいていただきたいのは、認知症の診断や治療の目的は、単に病名をつけることではないという点です。大切なのは、できるだけ長く自立した生活を送り、ご本人らしい時間を保つことです。そのためには、早めに相談し、治療可能な病気を見逃さず、必要に応じて生活習慣や支援体制を整えることが重要です。加えて、難聴も認知症リスクと関連することが分かっており、聞こえにくさを放置しないことも大切です。まだ大丈夫だと考え、我慢せず、気づいた時点で相談することが、将来の自立につながります。
河村 満 医師(戸塚共立あさひクリニック)
1970年代に医学部卒業後、大学病院や関連医療機関にて神経内科領域の臨床・研究に従事。昭和大学(現・昭和医科大学)神経内科教授として長年にわたり診療・教育・研究に携わり、認知症や神経変性疾患の診療に豊富な経験を有する。退任後は同大学名誉教授に就任し、現在は戸塚共立あさひクリニックにて外来診療をおこなう。日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本内科学会認定内科医。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
※記事内容は執筆時点のものです。
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