片頭痛が起こる原因と治療法はご存じですか? 予防法・女性に多い理由も医師が解説
しつこい片頭痛に悩まされている人も多いと思います。頭痛のたびに治療薬を服用している人も多いのでは? そもそも片頭痛はなぜ起きるのでしょうか。どのようにして治療するのでしょうか?
片頭痛とはどんな病気? 主な症状は?
Q. 片頭痛とはいったいどのような頭痛のことを言うのですか?
A. 頭痛にはさまざまな種類がありますが、片頭痛は片側が痛む、ズキンズキンと脈打つように痛む、歩行などの日常生活動作で痛みが悪化するという特徴があります。また、頭痛の程度が重く、日常生活への影響が大きいということも片頭痛の特徴です。
Q. 片頭痛はほかの症状を伴うことがあるのですか?
A.
はい。ほかの症状を随伴するのも片頭痛の特徴です。以下のなかから少なくともひとつ、頭痛以外の症状を伴うとされています。
・悪心、嘔吐
・光に過敏になる
・音に過敏になる
・においに過敏になる
など
Q. 片頭痛が起きるときに前兆はあるのですか?
A. 頭痛が始まる直前または同時期に閃輝(せんき)暗点といった視覚性の症状が出ることがあります。これは、ギザギザした光が目の前に見えるというもので、通常は60分以内でこうした症状が終わります。
Q. そのほかにも前兆はありますか?
A. 最も多いのは閃輝暗点ですが、そのほかにもピリピリ痺れる、言葉がうまくしゃべれなくなる、手足が麻痺する、めまいがする、などの症状が起きる場合もあります。ただしすべての人に前兆が起きるわけではなく、何らかの前兆が起きるのは、片頭痛患者の30%くらいとされています。
Q. 片頭痛は繰り返すこともあるのですか?
A. 基本的に、片頭痛は同じような発作を繰り返す頭痛です。国際頭痛分類によれば、「前兆のある頭痛を2回以上」「前兆がない頭痛を5回以上」繰り返すと片頭痛と診断されます。
片頭痛の原因とは?
Q. 片頭痛の原因はなんですか?
A. 片頭痛の原因やメカニズムはまだ完全に明らかにされていませんが、さまざまな要素が誘因となって発症すると考えられています。有力な説の一つに三叉神経血管説というものがあります。
Q. それはどのようなものですか?
A. これは光、音、におい、ホルモンの変化、気温、気圧など何らかの刺激により、硬膜上にある三叉神経終末からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などの血管作動物質が放出されることによって片頭痛が起きるという説です。CGRPが放出されると血管からタンパク質などが漏れやすくなり、炎症が起こります。この炎症が三叉神経によって脳に伝えられることで頭痛や吐き気、嘔吐などの症状が起きるというものです。
Q. 片頭痛のメカニズムの解明が進んでいるのですね。
A. 近年ではさらに研究が進み、そのほかにも皮質拡延性抑制という現象が脳に起きると片頭痛の前兆として閃輝暗点が生じることがわかっています。しかしなぜ、皮質拡延性抑制の現象が起きるかはまだ明確にされておらず、今も研究が行われています。
片頭痛の治療法は? 頭痛が起きる前に予防できる?
Q. 片頭痛になりやすい人の特徴はあるのですか?
A. 片頭痛は頻度の高い疾患で、日本では成人の約8.4%が片頭痛にかかっているという報告もあります。男女比を見ると女性の方が頻度は高く、特に20〜40代の女性に多いとされています。
Q. なぜ、女性に多いのですか?
A. 女性ホルモンが関係していると考えられます。女性ホルモンの一種、エストロゲンが高濃度になると、先述の皮質拡延性抑制の頻度が増加し、片頭痛が起きやすくなります。また、月経周期に合わせてエストロゲンが急激に減少すると、血管が拡張しやすくなるため、やはり片頭痛が起きやすくなります。
Q. 片頭痛はどのようにして治療するのですか?
A. まず大切なのは、非薬物療法です。これは薬を使わず、主に生活習慣を改善することで頭痛を予防する方法で、服作用もないため全例に推奨されます。
Q. 具体的にはどのようなことを行うのですか?
A. 片頭痛の誘因は人によって異なります。睡眠、ブルーライト、食事内容、人混み、肩こり、ストレスなど、片頭痛を引き起こすきっかけとなるものを医師と一緒に探り、それに対する対処法を考えていくことで、片頭痛の頻度を減少させていきます。
Q. それでも治らない場合には?
A. 薬物療法を行います。片頭痛の薬物療法は急性期治療と予防療法の2種類があります。急性期治療とは、頭痛が起きたときに痛みを早く鎮めるための治療法。現在では三叉神経周囲の炎症を抑えたり、脳の血管を収縮したりする働きがあるトリプタンという薬剤が用いられています。
Q. ほかにも治療薬はありますか?
A. 急性期治療においては、アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)やアセトアミノフェンを用いることもあります。しかしこれらの急性期治療の薬を過度に使用すると頭痛の頻度が増加し、毎日のように頭痛が起こるようになることがあります。これを薬物使用過多による頭痛と呼びます。市販の鎮痛薬を容易に購入できるため、知らずのうちに薬物の使用過多により頭痛を悪化させてしまうという人も少なくありません。
Q. 薬物の使用頻度はどれくらいを目安にすれば良いのでしょうか?
A. 鎮痛薬を月2日以上使用する場合には、片頭痛の慢性化や薬物の使用過多になるリスクがありますから、早めに医師の診察を受けましょう。症状を悪化させないためにも、この段階で速やかに片頭痛への対応を始めることが必要です。
Q. 予防療法はどのようにして行うのですか?
A. 非薬物療法をまずしっかり行うことを前提とし、その上で薬物療法を行います。予防療法で用いる薬にはカルシウム拮抗薬、β遮断薬、抗てんかん薬、抗うつ薬などがあります。ただしこれらは飲んですぐに効果が期待できるわけではないので、月単位で継続する必要があります。
Q. 予防療法を行えば、片頭痛が起きなくなるのですか?
A. いいえ、残念ながら予防療法の効果が出るのは半数くらいといわれています。また勘違いされやすいのですが、予防療法の効果は「頭痛の頻度が減る」「頭痛の程度が軽くなる」「鎮痛薬が効きやすくなる」ということで判定されます。つまり、予防療法を行ったからといって、完全に片頭痛がなくなるわけではないので、そのあたりは注意が必要です。どのような薬剤も完全に片頭痛を抑え込むことはできないため、日常生活の改善など非薬物療法も重要なのです。
Q. ほかには、どのような薬が用いられるのですか?
A. 最近注目を集めている予防薬に、CGRP関連抗体薬があります。CGRPは先述の通り、三叉神経の末端から放出され、頭痛を起こす原因となる物質です。
Q. それを薬として使うのですか?
A. CGRP関連抗体薬は、CGRPそのものをブロックしたり、CGRPが結合する受容体を塞いだりすることによって片頭痛を予防するものです。これは注射薬で、月1回投与します。日本では内服薬を1種類以上試したけれど効果がない人や、内服薬の副作用があり使用できない人が保険適用になりますが、多くの人が効果を実感しており、海外でも広く普及しています。薬価が高額のため治療に迷う人もいますが、片頭痛の日常生活に与える影響は非常に大きいため、医師に相談してみると良いと思います。
中川 祐(辻堂脳神経・脊椎クリニック)
2008年慶應義塾大学医学部卒業。2008〜2010年横浜市立市民病院初期臨床研修医、2010年慶應義塾大学医学部脳神経外科学教室入局。その後、済生会宇都宮病院脳神経外科、足利赤十字病院脳神経外科、慶應義塾大学病院脳神経外科助教、日野市立病院脳神経外科、済生会横浜市東部病院脳神経外科医長を経て、辻堂脳神経・脊椎クリニック開院。医学博士、日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医、日本認知症学会、日本頭痛学会、日本脳神経外科漢方医学会。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
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