歯科医師が解説 「食後すぐ(30分以内)の歯磨きはしないほうがいい」説のウソ・ホント


歯科医師が解説 「食後すぐ(30分以内)の歯磨きはしないほうがいい」説のウソ・ホント

「食べてすぐ歯を磨いてはいけない」という話を目や耳にしたことはありませんか? しかし、この情報は医学的な根拠に乏しく、歯科の様々な学会ではこれと異なった見解を示しているようです。

歯磨きのタイミングは食後すぐ(30分以内)はダメって本当? 食後30分説に医学的根拠・エビデンスはある?

Q. 「食後30分間は歯磨きをしてはいけない」というのは本当なのでしょうか?

A. 「食後すぐ(30分以内)に歯を磨いてはいけない」はやや正確性に欠ける誤った情報です。日本小児歯科学会や日本歯科保存学会、日本口腔衛生学会など国内の名だたる学会もこの言説を医学根拠に欠けた情報としています。

Q. なぜ、このような情報が広まったのでしょうか?

A. きっかけはTVの情報番組で取り上げられたことですが、その内容が誤った形で広まってしまい現在に至ります。元の情報は「象牙質が露出している人が酸性の食品を取った後は、食後すぐの歯磨きは控えたほうがよい」というものでした。その根拠となったのが、ヒトの象牙質の断片を炭酸飲料に90秒間浸した後、その断片をお口に装着してブラッシングするという「酸蝕症」に関する研究論文です。

Q. その研究が「食後30分」の根拠になったのでしょうか?

A. そうだと考えられています。実験では象牙質を口に戻した直後、10分後、20分後と時間をあけてブラッシングを行っています。その結果、20分以内に磨いたグループでは象牙質が削られていましたが、30分以上経って磨いたグループでは磨いていないグループと象牙質の性状に差がありませんでした。おそらくこれが「食後30分」といわれるようになった由来だと思います。

Q. 実際にそのような結果があれば、「食後30分間はNG」もまったく根拠がないとはいえないのではないでしょうか?

A. 「酸性食品を飲食した後の歯磨き」ということであれば、まったく根拠がないとまでは言い切れません。実際、日本歯科保存学会も先の見解において「酸性の強い飲料などの飲食物を取った場合には、歯の酸蝕(酸で歯が溶ける)に留意して歯磨きすること」としています。しかし、むし歯と酸蝕症はそもそも成り立ちが異なるため、むし歯予防について言えば「食後30分間は歯磨きを控える」は適切ではありません。

Q. つまり、むし歯予防の歯磨きは「食べたらできるだけ早く磨く」が正解なのですね。

A. 普段の歯磨きは「食後できるだけ早い時間」をお薦めします。私たちが日常行っている歯磨きの目的は、むし歯や歯周病の原因となる「プラーク」を除去することです。そのプラークは、口内の細菌と食べ物に含まれる糖分で形成されます。したがって、プラークの元となる細菌と食べかすをできるだけ早く取り除くことが重要になってくるわけです。

結局、歯磨きは食後何分がいい? お酢や炭酸・みかんなど酸性度の高い食事のあとはすぐに歯磨きしないほうがいい?

Q. これまでの内容をまとめると、結論としては食後何分で磨くのがよいのでしょうか?

A. 今のところ、その具体的な時間を示すエビデンスはありません。現時点で言えるのは「通常の食事であれば食後30分間あける必要はなく、できるだけ早い時間に行うほうがよい」ということ。くわえて「酸性の食品を食べたり飲んだりした場合は、直後の歯磨きは控える(少し時間をあける)ほうがよい」というこの2点です。

Q. 「酸性の食品」というと、お酢やかんきつ類なども注意したほうがよいのでしょうか?

A. お酢やみかんなどのかんきつ類も酸性食品ですが、たとえば「酢の物」のように噛んで食べるものであれば、噛むことで唾液の分泌が促されるので酸の力も弱まります。果物も基本的に噛んで食べるものなので、そこまで神経質になる必要はないでしょう。酸性食品の中でとくに注意したいのは「飲み物系」です。近年は、健康によいという理由でお酢系のドリンクを愛飲している方も多いと思いますが、飲料に関しては飲んですぐの歯磨きは控えたほうがよいでしょう。

Q. 「酸性の飲み物」では、ほかにどのような飲料に注意したらよいでしょうか?

A. 身近なものでは炭酸飲料、乳酸菌飲料がその代表です。酸性度を表す指標としてpH値をよく使いますが、歯のエナメル質はpH5.5以下になると表面から溶けはじめます。先の炭酸飲料や乳酸菌飲料はいずれもこの数値より小さく、酸性度が強くなります。そのほかに、イオン飲料(スポーツドリンク)や赤ワイン、果汁ジュースなどもpH5.5を下回るため注意が必要です。

歯磨きは1日何回? いつするのがいい? 歯科医のおすすめのタイミング

Q. 通常の歯磨きは「食後できるだけ早く」ということですが、そうすると基本的に朝・昼・晩の1日3回が理想的なのでしょうか?

A. 国際歯科連盟(FDI)が「う蝕の予防と管理」という文書の中で推奨しているのは1日2回、フッ素(フッ化物)配合の歯磨き剤を使用した歯磨きです。これに準じて、国内の4学会(日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学学会)でも1日2回のフッ化物配合歯磨剤を使った歯磨きを推奨しています。もちろん、朝・昼・晩の3回磨いても問題はありませんが、むし歯予防の研究では1日2回と3回とでは効果にあまり差がないことがわかっています。

Q. 1日2回とすると、朝・昼・晩のどのタイミングがよいでしょうか?

A. 先の国際歯科連盟の文書では「朝と就寝前の1日2回」、国内の各学会は「就寝前を含めて1日2回」としています。いずれも共通しているのは、2回のうちの1回は「就寝前」ということです。したがって、1日のうち就寝前は必ず磨いて、残りの1回はライフスタイルに応じて習慣化しやすいタイミングを選べばよいと思います。

Q. ちなみに、夜の歯磨きは「夕食後」と「就寝前」のどちらを優先したらよいでしょうか?

A. 夕食後に時間をあけてデザートを食べたり、晩酌をしたりする方もいらっしゃると思うので、基本的には「寝る前の最後の食事の後」に磨くようにしてください。このあたりは個々のライフスタイルによりますが、寝る前に磨いたら基本的に何も食べない・飲まないことを意識しましょう。


犬飼 伸二(いぬかい医大モール歯科クリニック)

東京医科歯科大学学術研修会(現・東京医科歯科大学歯科同窓会)修了。医療法人の勤務医、分院長を経て、2004年にいぬかい医大モール歯科クリニックを開院。「一人の人間として、患者さんに向き合いたい」という理念のもと、患者さんと同じ目線に立った診療を心がけている。日本顎咬合学会咬み合わせ認定医。


引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より

※記事内容は執筆時点のものです。
免責事項(Medical DOCサイトへ)

医師への24時間相談サービス 詳しくは「first call」へ

このコラムを読んだ方におすすめのアプリ

医師への24時間相談サービス

相談し放題になる、「dヘルスケア」有料利用についてはこちら

健康に関するちょっとした相談にも、医師が丁寧に回答。チャットで24時間気軽に医師に相談できます。