認知症と思っていたら甲状腺疾患だったということも… 「治る認知症」をご存じですか?


認知症と思っていたら甲状腺疾患だったということも… 「治る認知症」をご存じですか?

認知症のような症状が現れた場合、実はその原因が甲状腺だったというケースがあるようです。このような症状は適切な治療によって改善が期待できるため、見逃さないことが重要です。

甲状腺について医師が解説!

Q. 甲状腺とは何ですか?

A. 首の前面に位置し、蝶のような形をした臓器である甲状腺は、ホルモンを分泌する内分泌器官です。血液中のヨウ素を材料にして甲状腺ホルモンを生成し、全身の新陳代謝を活発にする役割を担っています。また、心臓の働きを調整したり、体温を維持したりするほか、成長を促進する重要な機能も果たしています。

Q. では、甲状腺の疾患にはどんなものがありますか?

A. 通常、甲状腺ホルモンは、分泌量が多すぎたり少なすぎたりしないように体がバランスを取っているのですが、何らかの原因でそのバランスが崩れてしまうことがあります。甲状腺の疾患は大きく分けて、機能が過剰になる「甲状腺機能亢進症」と、逆に低下してしまう「甲状腺機能低下症」に分類されます。

Q. 甲状腺機能亢進症はどのような病気ですか?

A. 代表的な甲状腺機能亢進症は「バセドウ病」です。暑がり・多汗、動悸や手の震え、体重の減少、疲れ、下痢などが主な症状で、眼球が突出するなど、外見にも影響が出ます。ほかには、「亜急性甲状腺炎」や「無痛性甲状腺炎」といった疾患では、甲状腺ホルモンが大量に分泌されることがあります。

Q. では、甲状腺機能低下症はどのような病気ですか?

A. 代表的な甲状腺機能低下症は「橋本病」です。本来、外部からの異物を攻撃するはずの免疫システムが誤って自分の甲状腺を攻撃してしまうことで発症します。この病気では、初期の段階ではほとんど自覚症状がないこともありますが、進行すると首が腫れたり、代謝の低下により、体重の増加や疲れやすさ、低体温・寒がり、高脂血症や便秘などの症状がみられたりします。

認知症と思いきや… 原因は甲状腺

Q. 甲状腺機能低下症が認知症と関係すると聞いたことがあります。

A. はい。甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモンの分泌が低下することで神経伝達が不十分になることもあるため、記憶力の低下や反応・判断の鈍さ、無気力といった症状が出ることがあり、認知症と診断されてしまうことがあります。“治る認知症”と呼ばれることもあります。

Q. 甲状腺機能低下症が原因の認知機能低下は多いのですか?

A. 頻度は高くありませんが、見逃されるケースがあり注意が必要です。特に高齢者では症状が認知症と紛らわしいため、認知症の治療を続けてしまうこともあるようです。

Q. 甲状腺機能低下症と認知症を区別するにはどうすればよいですか?

A. 甲状腺機能低下症は血液検査で診断できます。認知症の症状がある場合でも、まず甲状腺ホルモンの値を確認することで、本当の原因を見極めることができます。もちろん、両者が併発することもあるので、「甲状腺機能低下症だったから認知症の心配はない」ということはありませんので、こちらも注意が必要です。

Q. どのタイミングで甲状腺の検査を受けたらよいでしょうか?

A. 記憶力低下や疲れやすさ、無気力などが続く場合には、一度甲状腺機能を調べてみるとよいでしょう。特に、原因がはっきりしない場合には、早めの検査をおすすめします。さらに、前述のような寒がりや体重増加、疲れやすさなどの症状を伴っている場合は、甲状腺機能低下症の可能性がより高いと思われますので、早めに病院を受診してください。

甲状腺疾患による認知機能低下は「治る認知症」

Q. 甲状腺機能低下症による症状は治るのでしょうか?

A. 適切な治療を受けることで、甲状腺機能低下症の症状は改善することが期待できます。甲状腺ホルモンの不足を補う薬を服用することで、認知機能も改善することが多いのです。

Q. 「認知症だと思っていたものが、別の疾患の治療で改善する」といったことがあるのですね。

A. そうですね。認知症に似た症状を引き起こす病気は多く、甲状腺機能低下症のほか、うつ病や脳炎、更年期障害など多くの病態が考えられます。


川名部 新(おばな内科クリニック)

聖マリアンナ医科大学卒業。同大学病院では代謝内分泌を主として、糖尿病や生活習慣病を専門に経験を重ねる。2023年4月より川崎市中原区にある『おばな内科クリニック』を継承し、院長を務める。日本内科学会認定医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医、臨床研修指導医


引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より

※記事内容は執筆時点のものです。
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