肝斑って自然に消えるの? 放置するリスクはご存じですか?【医師解説】
多くの女性を悩ませている肝斑(かんぱん)。肝斑に良いとするサプリメントや化粧品なども多く市販されていますが、「なかなか消えない」と困っている女性も少なくありません。一体、肝斑は自然に消えることがあるのでしょうか?
肝斑は一体なぜ、できるのか?
Q. 肝斑とはどのように定義されるのですか?
A. 肝斑とは多くの場合、30代以降の女性に見られるシミの一種のことをいいます。頬に左右対称に出てくることが多いとされています。
Q. 一般的なシミとは違うのですか?
A. 一般的なシミは老人性色素斑といいますが、この場合には輪郭がくっきりしており、必ずしも左右対称に出るということはありません。一方、肝斑の場合には老人性色素斑に比べて輪郭がぼんやりしていることが多く、左右対称に現れるという特徴があります。
Q. 肝斑は頬だけにできるのですか?
A. いいえ、出現する場所は人それぞれで、頬のほか鼻の下や口周り、額にできることも少なくありません。
Q. なぜ、肝斑ができるのですか?
A. 肝斑ができる主な原因は刺激です。刺激のなかでも多いのは、紫外線と摩擦。これらの刺激に触れることで肝斑が作られるのです。そのほか、女性ホルモンのバランスが乱れることも原因として知られています。
Q. 摩擦とはどういうことですか?
A. たとえば顔を洗うとき一生懸命こすったり、タオルでゴシゴシ拭いたりするのは肌にとって悪い刺激になります。そのほか肝斑は男性にできることもあり、たとえば、毎日の髭そりが肌に刺激となり、肝斑ができる人もいます。
Q. なぜ、女性ホルモンのバランスが乱れると肝斑ができるのですか?
A. 女性ホルモンの一種であるプロゲステロン(黄体ホルモン)はメラノサイトを活発化させ、表皮および真皮のメラニン色素を産生するといわれています。そのため肝斑が発症すると考えられています。
Q. 既存の肝斑が悪化する要因はありますか?
A. はい。妊娠や経口避妊薬、閉経などによるホルモンバランスの急激な変化のほか、紫外線、摩擦などの物理的刺激、睡眠不足などが悪化のトリガーになるといわれています。また最近の研究により、肝斑はストレスによって悪化することがわかっています。そのほか近親者が肝斑を発症している場合は遺伝する可能性もあります。
Q. いろいろなことが悪化の要因になるのですね。
A. それから、花粉症の季節になると肝斑が悪化するということもあります。これは、皮膚が花粉の刺激に反応しているということ。この場合は花粉症の治療をしっかり行うことで、肝斑の悪化を予防できます。
肝斑の治療法 トラネキサム酸・ビタミンC・ビタミンEが有効な理由とは? ニードルRFって何?
Q. 肝斑はどのようにして治療するのですか?
A. 肝斑の治療で有効とされているものに、まず、トラネキサム酸やビタミンC、ビタミンEの服用があります。エビデンスもしっかりあり、簡単に取り組める治療法として推奨されています。
Q. それぞれどのような効果が期待できるのですか?
A. それを説明する前にまずは紫外線を浴びてから皮膚に色素が沈着するまでの流れを見てみましょう。まず紫外線を浴びると、皮膚の深いところにあるメラノサイトに「メラニンを作りなさい」という信号が出されます。するとメラノサイトはメラニンという色素を作ります。このときトラネキサム酸には、メラノサイトに対する「メラニンを作りなさい」という信号をブロックする働きが、また、ビタミンCにはメラノサイトでメラニンが作られるのをブロックする働きがあるのです。
Q. それによってメラニンが作られなくなるのですね。
A. そのほか、ビタミンCには色が濃いメラニンを薄くするという作用もあります。またビタミンCは不安定な成分で、体内ですぐに働きを失ってしまうのですが、ビタミンEにはビタミンCを手助けするという作用があります。それから、紫外線は活性酸素を作るのですが、ビタミンEには強い抗酸化作用があるので、この活性酸素を除去する働きも期待できます。また、血流を良くして真皮の環境を整えることで、小じわにも効果があるとされています。
Q. そのほか、肝斑にはどのような治療法がありますか?
A. 症例により、ハイドロキノンやトレチノインなどの外用薬を使用することもあります。そのほか、ピーリングやレーザートーニングによる治療を行うこともありますし、近年ではニードルRFという肝斑に特化した治療が主流となりつつあります。
Q. ニードルRFとはどのような治療ですか?
A. これはマイクロニードルという細い針を皮膚に刺し、高周波により肌の深部に熱を加えることで、皮膚内部の環境を再構築する治療のこと。そもそも肝斑のある肌は細胞のDNAが壊れ、メラニンを異常に作り出しています。そのような異常な環境を改善し、健康的な状態へ回復させるのがニードルRFなのです。
Q. ニードルRFの治療をすることで、肝斑の予防にもなるのですか?
A. はい、ピーリングやレーザートーニングでも確かに肝斑を薄くすることはできますが、治療をやめるとまた出現してしまうことが少なくありません。しかしニードルRFは皮膚の内部を根本的に作り変えるので、肝斑を治療するだけでなく予防にもなるのです。
Q. 肝斑を予防するために、日常生活で気をつけた方がいいことはありますか?
A. 肝斑治療での禁忌は、皮膚に刺激を加えること。そのため紫外線対策を徹底することが大切です。それから「洗顔時にゴシゴシしない」「ブラシを使ってメイクをしない」など、摩擦を避けることも大切です。
Q. ブラシを使ったメイクもダメなのですね。
A. ブラシを使うと皮膚に刺激を与えるので、パフでトントンと押さえつけてなじませることをお勧めします。それから気温も肝斑を悪化させる要因になることがわかっており、紫外線対策をしっかりしていても暑いところにいるだけで肝斑が悪化することもあります。それと関係して、熱いお湯で顔を洗うのも余計に肝斑を悪化させる原因に。顔を洗うときには33度くらいのぬるま湯を使い、シャワーで洗わずに優しく洗うようにしましょう。
Q. 徹底して、刺激を加えないよう注意しなければならないのですね。
A. はい。洗顔をするときにはモチモチの泡を立ててやさしく包み込むようにして洗うのが基本。メイクをする時も洗顔をする時も、「皮膚が動かないように意識する」と良いと思います。
Q. 肝斑は男性にもできるということですが、男性が気をつけるべきことはありますか?
A. 男性で多いのは、T字の剃刀を使って髭をそることで肝斑が悪化しているケース。T字の剃刀でなく、電動の髭剃りを使うだけで十分、肌への刺激を少なくできますし、もっと肝斑を改善したいのであれば、髭の脱毛をすることがお勧めです。
肝斑は自然治癒するのか? 60代になれば薄くなるって本当?
Q. 肝斑は治療で消すことができるのですか?
A. 適切な治療を行えば、早ければ1か月くらいで「薄くなった」など効果を感じられると思います。ただし、肝斑に加えてシミが合併していることも多いので、その場合にはまずは肝斑治療を行い、そのあとにシミ治療を行うなど、順序立てて治療スケジュールを考える必要があります。
Q. 肝斑は自然に消えることはないのですか?
A. 肝斑は女性ホルモンの影響を強く受けるため、閉経して女性ホルモンの乱れが落ち着いて60代くらいになれば自然に薄くなるとされています。ただし、完全に消失することは稀なので、肝斑が気になる場合には適切な診断と治療が必要になります。
Q. 肝斑はシミ治療のように、レーザーを照射して一回で治すことはできないのですか?
A. 老人性色素斑であれば強いレーザーを照射して一度で取り切ることは可能ですが、肝斑の場合にはかえって色が濃くなって再現されることが少なくありません。そもそも肝斑の治療で重要なのは、「今、皮膚の表面にある色素を外に排出していくこと」と「新しい色素を作らせないようにすること」。この二つを同時に行うことで、初めて治療と予防が実現できるのです。
Q. 機序が異なる治療を同時に行うことが大事なのですね。
A. はい。たとえばピコトーニングやピーリングでは「今、表面にある色素を排出する」ことはできるかもしれませんが、排出するより速いペースで新しい色素が作られてしまえば、治療は追いつきません。一方、内服治療だけでは、「新しい色素を作らせない」ことはできるかもしれませんが、ターンオーバーのリズムが乱れていればなかなか排出が進まず、色素は薄くなりません。そのためどれか一つの治療法を選択するのではなく、複数を組み合わせることが肝斑治療には重要なのです。
吉原 糸美(オジスキンクリニック)
東京女子医科大学卒業。東京警察病院にて研修後、昭和大学形成外科へ入局。主に美容医療の診療経験を積んだ後の2020年、埼玉県さいたま市に「オジスキンクリニック」開院。家族にも自信をもって提供できる治療に専心している。日本形成外科学会、日本美容外科学会、日本美容皮膚科学会、日本頭蓋学顔面外科学会の各会員。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
※記事内容は執筆時点のものです。
免責事項(Medical DOCサイトへ)