医師が教える「理想の睡眠時間」あなたは寝不足? それとも寝すぎ? 1日8時間説の真実
私たちは、1日のおよそ3分の1を眠って過ごしています。しかし、「寝たいけれど思うように眠れない」「日中の眠気がひどい」など、睡眠に関する悩みを持っている人は多いのではないでしょうか。今回は睡眠の質や量を高めるコツについて、医師に解説してもらいました。
理想の睡眠時間は何時間? 「1日8時間」はホント? 年齢や生まれつきの個人差は関係ある?
Q. 「1日8時間は寝るようにしましょう」という話をよく耳にします。それはなぜですか?
A. 成人の場合、1日7~9時間の睡眠時間の確保が推奨されており、その平均をとって8時間というのが1つの目安になっているのだと思います。ただし、個人によって必要な睡眠時間は異なるので、「8時間はあくまで目安」という位置付けでいいと考えます。
Q. では、理想の睡眠時間はあるのでしょうか?
A. はい、あります。年代ごとに推奨される時間が決まっています。なお、日本人の睡眠時間は平均で7時間20~40分程度であり、先進国の中でとても短いと言われています。また、平均睡眠時間は年々短くなる傾向がみられ、多くの日本人にとって睡眠による悩みは身近なものになっていると言われています。
Q. 具体的な理想の睡眠時間を年齢別に教えてください。
A.
「National Sleep Foundation」が推奨する年齢別の睡眠時間は、以下のとおりです。(※)
0~3カ月 | 14~17時間 |
4~11カ月 | 12~15時間 |
1~2歳 | 11~14時間 |
3~5歳 | 10~13時間 |
6~13歳 | 9~11時間 |
14~17歳 | 8~10時間 |
18~64歳 | 7~9時間 |
65歳以上 | 7~8時間 |
https://www.thensf.org/how-many-hours-of-sleep-do-you-really-need/
Q. でも、必ずしも全ての人にとって最適な睡眠時間ではないですよね?
A. たしかに、推奨される必要な睡眠時間はありますが、実際には個人差があります。1日5~6時間で済む人もいれば、8時間でも足りないという人もいます。自分の睡眠状況を確認するためには、「睡眠日誌」をつけてみましょう。2週間分の睡眠時間を記録して、平日と休日で差があるかどうか見比べてください。もし、平日と休日の睡眠時間に差がなければ最適な睡眠時間と言えますし、休日に2時間以上多く寝ている場合には、「睡眠負債(慢性的な睡眠不足)」の存在が疑われるため、必要な睡眠時間を改めて探る必要があります。
Q. ロングスリーパーやショートスリーパーの人もいると思いますが、健康に影響はないのでしょうか?
A. ロングスリーパー(長時間睡眠者)とは、長時間眠る必要がある人のことです。成人の場合では10時間以上、子どもの場合には同世代の基準値より2時間以上長く眠ると言われています。長時間寝ること自体は病気ではなく、その人の体質や特徴と言えるものです。ロングスリーパーは、必要な睡眠時間をとっていれば日中の活動に支障はなく、健康に問題はないと考えられています。一方で、ショートスリーパー(短時間睡眠者)とは、短時間の睡眠をとるだけで、日中の活動に支障なく過ごすことができる人のことです。6時間未満の睡眠で昼間の眠気もなく、健康状態に問題がない状態を指します。ショートスリーパーは精力的に活動することが得意な場合もあるため、憧れの対象かもしれません。ただし、これも体質的な要因が関係していると言われています。無理に睡眠時間を短くすることは、体調を崩す可能性もあるため、注意しましょう。いずれにしても、自分にとって必要な睡眠時間を知ることが重要です。
睡眠不足・寝すぎによる日常生活への影響とは 日中のパフォーマンスが下がる?
Q. 睡眠不足だと翌日の集中力が落ちることが多いのですが、生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
A. 睡眠不足によって日中に強い眠気が襲い、集中力や判断力、記憶力の低下などがみられます。慢性的な睡眠不足状態だと、本人が睡眠不足であることを自覚していないために日中のパフォーマンスが低下している可能性もあります。例えば、睡眠不足によって仕事の効率が悪くなり、残業をおこなうことで睡眠時間を削ることとなり、さらに効率が悪くなっていくという悪循環に陥っていることに気づかないこともあります。また、睡眠不足は様々な病気との関連も指摘されています。
Q. 具体的に、どのような病気のリスクがありますか?
A. 慢性的な睡眠不足は、肥満や糖尿病、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病の発症や悪化する要因になることが知られています。また、不眠がうつ病の発症や再発のリスクを高めることも知られています。睡眠不足によって日中のパフォーマンスの悪化や病気のリスクが高まる可能性があることから、睡眠不足の問題は後回しにせず、早めに対処する必要があります。
Q. 反対に、睡眠時間が長すぎることによる影響もあるのでしょうか?
A. 睡眠時間が長すぎることによって起こりやすい症状は、頭痛や疲れ、筋肉痛です。体内時計のリズムが乱れることで、ストレスが増えたりイライラしたりすることもあります。
Q. 寝すぎが病気のリスクを高める可能性があると?
A. はい。睡眠時間が長すぎることでも病気のリスクが高まると言われています。肥満や糖尿病になりやすいこと、心筋梗塞、高血圧、脳梗塞による死亡リスクが高いことなどが知られています。このように、睡眠時間が短すぎても長すぎても体調に支障をきたす可能性があります。
睡眠の質を高める方法、睡眠不足・寝すぎの解決法を医師が解説
Q. 睡眠の質を高めるコツがあれば教えてください。
A. まずは、生活習慣の見直しから始めましょう。生活習慣が乱れてしまい、就寝時間が大きくズレると、体内時計のリズムにも影響を及ぼします。夜型生活が習慣化してしまうと、夜に寝つけず朝も起きることが難しくなります。これは「概日リズム睡眠・覚醒障害」という病的な状態であり、治療が必要になります。このような場合には、朝の決まった時間に光を浴びましょう。太陽光を浴びることで体内時計の周期を保つことができます。
Q. 生活習慣ということは、食事や運動も睡眠の質と関係しているということですか?
A. もちろんです。体内時計のリズムを整えるためには、1日3回の食事をできるだけ決まった時間にとることも必要です。夕食は就寝前の3時間以上前に済ませることで、消化酵素の分泌が増えて消化が良くなり、眠りやすくなります。また、日中に適度な運動をおこなうことも深い眠りを促す効果があるためおすすめです。夜間の激しい運動は交感神経が優位になって眠りづらくなるため、昼から夕方にかけて運動するのがいいでしょう。加えて、就寝の1~2時間前にぬるめ(39~40度)のお湯に入浴することも試してみましょう。お湯に浸かることで深部体温が上昇しますが、それが下がってくるタイミングで寝床にいると、スムーズに寝つきやすくなります。
Q. 「カフェインやアルコールは睡眠の質を下げる」と聞いたことがあります。こちらについてはいかがでしょうか?
A. まず、カフェインは夕食以降に多くとらないようにしましょう。コーヒーや緑茶、コーラ、チョコレートなどには、覚醒作用や利尿作用のあるカフェインが含まれています。夜遅くに飲んだり食べたりすると、眠りにくくなるだけでなく、夜間に尿意で起きて目が覚めてしまうこともあります。また、眠るためにアルコールを摂取するということも控えましょう。アルコールには睡眠の後半に眠りが浅くなってしまう効果があることや、利尿作用があるので夜間のトイレのために起きてしまうこともあります。
Q. ほかにも、睡眠の質を高めるために取り入れたいことはありますか?
A. 自分なりのリラックス法や寝る前のルーティンを身につけましょう。「なんとなく眠れない日が続く」ということがあると思います。そんなときには、就寝の2時間程度までに入浴を済ませて、好みの音楽を聴いたりアロマを焚いたりして、ゆっくり過ごすことで緊張感がほぐれやすくなります。布団に入ってから考えごとをすると不安や緊張が強くなるかもしれないので、考えごとはリビングでして、布団の中では気分を入れ替えてみてください。また、ちょっとした物音や明るさが気になる場合には、耳栓やアイマスクを使ってみるのもいいかもしれません。色々と試行錯誤してみて、自分なりのリラックス法や寝る前のルーティンを見つけて、実践してみてくださいね。
Q. 医療機関に受診する目安はありますか?
A. 病気によって睡眠障害がある場合には、その治療を検討しましょう。例えば、夜間に咳き込む喘息発作や、睡眠中に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群などが挙げられます。また、アトピー性皮膚炎では、かゆみがひどくて眠りが浅くなることもあります。このように睡眠障害を引き起こす病気はたくさんあるため、症状を自覚している場合は医療機関に相談することをおすすめします。また、上記のような気づきやすい症状がなくても「1週間のうち3日間以上の不眠症状があり、それによって日中の心身の不調がある状態が3カ月以上続く」という場合は、慢性不眠障害が疑われるため受診が必要です。3カ月未満であっても、「昼間に眠気やだるさがある」「意欲や集中力が低下している」「気分が落ち込んでいる」などの症状があれば、早めに治療をおこなう必要があります。
村上 友太(東京予防クリニック)
医師、医学博士。福島県立医科大学医学部卒業。福島県立医科大学脳神経外科学講座助教として基礎・臨床研究、教育、臨床業務に従事した経験がある。現在、東京予防クリニック院長として内科疾患や脳神経疾患、予防医療を中心に診療している。 脳神経外科専門医、脳卒中専門医、抗加齢医学専門医。日本認知症学会、日本内科学会などの各会員。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
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