長引く痛みが「五十肩」ではなく「腱板断裂」の可能性。2つの違いなども専門医が解説

加齢などを原因として発症し、肩の痛みや動きの制限などをもたらす腱板断裂。場合によっては痛みのために眠れなくなることもあり、日常生活に支障をきたす場合もあります。腱板断裂の原因や治療法について解説します。
腱板断裂とは?
Q. 腱板断裂とはなんですか?
A. 簡単にいうと腱板が断裂を起こし、痛みなどの症状を引き起こす疾患のことをいいます。「肩腱板断裂」ともいいます。
Q. もう少し詳しく教えてください。
A. 腱板とは、肩のなかにあるインナーマッスルのこと。肩を動かしたり、守ったりする働きを持つ筋肉には肩甲下筋(けんこうかきん)、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)の4つがあります。これらの筋肉が骨にくっつく腱のところを腱板といいます。そしてこの腱板が断裂することを、腱板断裂といいます。
Q. なぜ、腱板が断裂してしまうのですか?
A. 大きな原因は加齢で、年齢が上がるにつれて徐々に腱板が擦り切れてしまうということが考えられます。また、スポーツなどで肩に繰り返し負荷がかかっていたことが原因になることもあります。そのほか転倒などの外傷や重いものを持つなど、急激に肩に負荷がかかったことで発症する場合もありますし、もともと体質的に切れやすい人もいます。
Q. どのような人が発症しやすいのですか?
A. 発症年齢のピークは60代ですが、40歳以上になると患者数が増えてきます。一般に女性に比べて男性に多く発症し、男女比は6:4といわれています。また右肩に多く発症することもわかっています。
腱板断裂の症状
Q. どのような症状が見られるのですか?
A. 主な症状は肩の痛みや動きの制限などです。そのほか、肩に力が入らずに挙げられないといったこともあります。また、痛みのために眠れないといった夜間痛を訴えて来院する方も少なくありません。
Q. 特にどんな動きをしたときに痛みが出るのですか?
A. たとえば、腕を挙げるとき、挙げ始めや挙げる途中で痛みが出ることがあります。また、髪の毛を洗ったり、背中を手で触れたりする動作が難しくなります。そのほか、トイレでお尻を拭いたり、ブラジャーのホックを止めたりすることが厳しいと感じることもあります。
Q. 肩の痛みというと四十肩や五十肩もありますが、どう違うのですか?
A. 実際のところ、初期の腱板断裂と四十肩や五十肩は似ていることが多く、一般の方が鑑別するのは困難。自分では四十肩や五十肩と思っても、本当は腱板断裂だったということも多いのです。両者の違いを挙げるなら、腱板断裂の場合には腕を挙げる時に力が入らないといった症状が見られることがあります。また、腱板断裂は安静に寝ているだけでも痛みが出ますが、四十肩や五十肩の場合は寝返りを打つと痛みが出るという特徴があります。
Q. 腱板断裂を放置するとどうなるのですか?
A. 腱板は自然修復が難しい組織であり、「治療を行わなくても、そのうち治る」ということはほとんどありません。腱板断裂を放置すると、腱板が徐々に退化してしまい、断裂が徐々に大きくなることでますます回復が難しくなり、日常生活にさまざまな支障が生じることがあります。
腱板断裂の治療法
Q. 腱板断裂はどのようにして診断するのですか?
A. 診察では、肩を挙げることができるか、肩関節の拘縮があるか、普段気づかないような動作で筋力低下が生じていないか、などを調べます。また腱板断裂を起こすと肩を挙げたとき、肩の頂点のあたりから軋轢音(きしむ音)が聞こえることがあるので、そうした音がないか調べます。それからX線検査や超音波検査を行ったり、確定診断のためにMRI検査を行ったりすることもあります。
Q. 腱板断裂と診断されたらどのような治療を行うのですか?
A. 基本は運動療法などの保存療法になります。痛みが強い場合には消炎鎮痛剤を用いて症状の軽減を図ります。特に痛みが強いときには注射が有効で、水溶性副腎皮質ホルモンと局所麻酔剤を肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)内に注射します。これは断裂部位の炎症を抑えるのに効果的ですが、ステロイドは副作用が心配なこともあるので、複数回注射が必要な場合はヒアルロン酸の注射に変更することもあります。
Q. それでも良くならない場合には?
A. 改善がない場合や肩が挙がりにくくなってしまった場合などは、手術を検討します。しかし、いずれの治療においても、重要なのはリハビリです。肩周りの筋肉をストレッチしたり、肩甲骨の可動域や体幹の動きを改善する訓練を行ったりしますが、重要なのは患者さんの痛みの程度や残存している肩関節機能の程度によって、運動の種類や強度を決定することです。必ず医師や理学療法士の指示に従って行うようにしましょう。

白澤 英之(しらさわ整形外科)
2008年3月東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2010年4月慶應義塾大学医学部整形外科学教室入局、同整形外科助教、2010年10月日野市立病院整形外科医員、2011年10月けいゆう病院整形外科医員、2012年10月太田記念病院整形外科医員、2014年4月慶應義塾大学大学院医学研究科入学、2018年3月慶應義塾大学大学院医学研究科修了、学位取得。2018年4月公立福生病院整形外科医長、2021年4月公立福生病院肩関節センター長を経て現職。第45回日本肩関節学会 高岸直人賞(学会賞)。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
※記事内容は執筆時点のものです。
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