運動によるメンタルヘルス改善効果を医師が解説 運動と心の健康の関係性とは?

メンタルヘルスの不調の際、自分自身でできることは何かあるのでしょうか。心の健康には運動が良いという意見も耳にします。そこで運動療法のメンタルヘルス改善効果について医師に伺いました。
そもそもメンタルヘルスとは? 仕事など日常のストレス・不安・気分の低下もメンタルの不調に含まれる?
Q. 「メンタルヘルス」とはなんですか?
A. 「メンタルヘルス」は、直訳すると「心の健康」です。世界保健機関(WHO)はメンタルヘルスを「自身の可能性を認識し、日常のストレスに対処しながら有益で生産性のある仕事ができ、そうすることで自身が所属するコミュニティに貢献できる健康的な状態」と定義しています。
Q. 思ったより幅広い概念なのですね。
A. そうですね。「メンタルヘルス」は、心の健康や精神的な幸福に焦点を当てた総合的な概念です。これは、感情の安定やストレス管理、適切な認知機能、適応力、人間関係の質など、さまざまな要素に関連しています。
Q. メンタルヘルスの状態が良くないとどうなるのですか?
A. 気分の落ち込みや不安、不眠、イライラや無気力など、さまざまな症状が起こり、「うつ病」などを引き起こすこともあります。近年よく聞かれる、心が不安定な状態の人を示す「メンヘラ」といったネットスラングもあるように、「メンタルヘルス」という言葉そのものが、「メンタルヘルスの不調」を指すこともあるようです。
Q. メンタルヘルスの不調になったら、どうしたら良いのでしょうか?
A. 1人で我慢せず、周りの人や専門家に相談するのはもちろんですが、セルフケアとしてお勧めなのは、運動です。
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Q. 運動がメンタルヘルスの改善に有効なのですか?
A. そうなのです。さまざまな研究でも、運動はメンタルヘルスに対して多くの効果をもたらすことが示されています。
Q. 例えばどんな効果がありますか?
A. 運動はストレスの軽減に効果的です。運動によって身体的な緊張が解消され、ストレスホルモンの分泌が抑制されるとされています。また、運動によってエンドルフィンやセロトニンといった脳内物質が放出され、リラックスや気分の改善にもつながると考えられています。さらに、運動によって脳内のセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質のバランスが改善されると気分の安定や抑うつ感の緩和にも寄与すると考えられています。
Q. 学術的にも効果が証明されているのですね。
A. その通りです。さらに、運動が精神面や認知面に良い影響をもたらす要因として、脳内の伝達物質である「BDNF(脳由来神経栄養因子)」が密接に関係していることも報告されています。運動によってBDNFの分泌が促進されることで、神経細胞の成長、新しいシナプスの形成、神経回路の強化に関与し、脳の機能や認知能力の向上に寄与するのです。また、ストレスを受けるとBDNFの分泌が低下すると言われていますが、運動でBDNFの分泌が促されると、神経細胞の保護効果をもたらすことがあります。
Q. 身体的な健康効果だけではないのですね。
A. そうですね。もちろん、身体を動かすことで血流が良くなってリラックスできたり、運動によって身体的な疲労が生じ、より良い睡眠を誘導することができたり、身体的な効果も数多く報告されています。
メンタルヘルス改善のための運動療法は何をするの?有酸素運動が健康に良いって聞くけど実際の効果は?
Q. 実際にどのような運動をすると良いのですか?
A. 簡潔に言うと「有酸素運動」もしくは「筋力トレーニング」がお勧めということになります。WHOが2020年に発表した成人の運動ガイドラインによると、「1週間に150分以上の中程度の有酸素運動または、1週間に75分以上の高強度の有酸素運動を実施することを目標とする」「有酸素運動を追加で行うか、筋力トレーニングを行うことを推奨する」「長時間座っている場合は、定期的に立ち上がって活動することを推奨する」とされています。
Q. 「有酸素運動」とは、具体的にどのような運動ですか?
A. 有酸素運動は、長時間継続して行える運動を指します。代表的な有酸素運動としてウォーキングやジョギング、ランニング、サイクリング、水泳、エアロビクス・アクアビクスなどがあります。
Q. では、「筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)」は?
A. スクワットや腕立てなど、ご自身でできるものも手軽でお勧めですし、マシントレーニングやウェイトトレーニングなど、ジムなどで行うトレーニングもよいと思います。

薮野 淳也(Stay Fit Clinic)
慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、徳島大学医学部へ入学、医師国家資格取得後、産業医として勤務し経験を積む。2023年、南青山に「Stay Fit Clinic 」を開院、院長となる。産業医だからこそできるサービスを提供し、働く人の健康管理とパフォーマンス向上、企業の生産性向上と業績UPを目指している。認定産業医、認定スポーツ医、健康運動指導士 、健康運動実践指導者。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
※記事内容は執筆時点のものです。
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