「休んでいるのに疲れがとれない…」うつ病にならないための正しい休み方を精神科医が解説


「休んでいるのに疲れがとれない…」うつ病にならないための正しい休み方を精神科医が解説

せっかくの休日なのに、全然疲れが取れないと感じる方もいるのではないでしょうか。じつは、自分では休んでいるつもりでも、実際には脳をさらに疲弊させてしまっている可能性があるようです。ストレス社会で働く私たちにとって、心と体をきちんと回復させる休み方を知ることは、メンタルヘルスを守る第一歩です。そこで今回は、脳科学に基づいた「正しい休み方」と“やってはいけない”休日の過ごし方について、医師に詳しく解説していただきました。

なぜ「休みの日も疲れる」のか? 仕事のストレスが心身に与える影響

Q. 仕事によるストレスは、心や体にどのような影響を与える可能性があるのか教えてください。

A. 仕事によるストレスは、脳の扁桃体(危険を感知するアラームの役割)を過剰に刺激し、不安やイライラを引き起こします。同時に、ストレスホルモン(コルチゾール)が過剰に分泌されると、前頭前野の働きが低下し、判断力や集中力が低下します。自律神経も乱れ、動悸や胃痛、不眠、免疫力低下など、体に様々な不調をもたらします。慢性的な状態が続くと、うつ病や高血圧、心疾患のリスクも高まるため、早期の対処が大切です。

Q. 休日にも疲れが抜けずむしろ憂うつになるのですが、どのような原因が考えられますか?

A. 慢性的なストレスは、脳の疲労を引き起こし、休んでも回復しにくくなります。特に脳の扁桃体が過敏になると、不安や落ち込みが増し、前頭前野の活動も低下して意欲が湧かなくなります。また、仕事から離れることで気が緩み、蓄積された疲労感や抑うつ感が表面化しやすくなるため、休日に気分が落ち込む「サンデーナイト・ブルー」などが起こります。

Q. ストレスに気づかず放置すると、精神的・身体的にはどのようなリスクがありますか?

A. ストレスに気づかず放置すると、脳は常に緊張状態となり、コルチゾールが慢性的に分泌されます。これにより、前頭前野の働きが低下し、抑うつや不安障害を引き起こしやすくなります。さらに自律神経が乱れ、動悸や不眠、胃腸障害、免疫力低下など体への影響も顕著になります。長期化すると高血圧や心筋梗塞、うつ病などの重篤な疾患につながるリスクがあります。

心を休めるために“やってはいけない”休日の過ごし方とは?

Q. 一見リラックスしているようでも、メンタルを疲弊させてしまう休日の過ごし方はありますか?

A. 「スマートフォンやSNSを長時間観る」「だらだらと動画を観続ける」といって過ごすと、一見休んでいるようでも脳は情報処理で疲弊しています。特にSNSは他人と比較しやすく、無意識のストレスや自己否定感が生まれやすくなります。また、予定を詰め込みすぎる、義務感のある娯楽も脳の回復を妨げ、メンタルの疲労を蓄積させます。脳は刺激より静けさで回復するため、質の高い休息が必要です。

Q. 「休まなきゃ」と焦る気持ちが逆効果になることもあるのでしょうか?

A. あります。「休まなきゃ」と意識しすぎると、脳の扁桃体がストレスとして検知し、かえってリラックスできなくなります。この“休息の義務感”は、交感神経を優位にし、心拍や筋緊張を高めるため、心身の緊張状態が続きます。脳は何もしない時間や、没頭できる心地よい活動で回復します。意識して休もうとするより、自分が心地よいと感じることをするのが効果的です。

Q. 休日に何かしていないと「もったいない」と感じてしまうのですが、そうした感覚はメンタルケアの妨げになりますか?

A. 「もったいない」と感じることで休息に罪悪感を持つと、脳がリラックスできず、回復が妨げられます。脳科学的には、何もしない状態(デフォルト・モード・ネットワークの活性化)の時間が創造性や感情の整理に重要です。常に生産性を求める思考は、心を緊張させ、疲労や抑うつの温床になります。休むことも価値ある時間と再認識することが、健やかなメンタルケアにつながります。

メンタルケアに効果的な休日の過ごし方

Q. メンタルをしっかり休めるには、どのような過ごし方が効果的ですか?

A. メンタルを休めるには、脳の興奮を鎮めることが重要です。自然の中を散歩する、音楽や読書など五感を穏やかに刺激する活動が効果的です。特に前頭前野の過活動を抑え、扁桃体の興奮を鎮めるには、静かに“今ここ”に意識を向けるマインドフルな時間が有効です。SNSや情報過多は脳を疲弊させるため、意識的にデジタルデトックスをおこなうことも大切です。

Q. 短時間でも効果的にメンタルを休ませる方法があれば教えてください。

A. 短時間でも脳の緊張をゆるめる時間を取ることで、メンタルは回復します。深呼吸や1分間の瞑想、目を閉じて何も考えない時間が有効です。これにより、自律神経が整い、ストレスホルモンの分泌も抑制されます。また、5〜10分の自然音や香りを取り入れるだけでも、扁桃体の活動が抑えられ、リラックス反応が促進されます。小さな休息の積み重ねが、脳の疲労を防ぎます。

Q. 「自分に合った休み方」を見つけるためには、どのような視点が大切ですか?

A. 大切なのは、自分の心と体がどう感じているかという点に気づく視点です。他人の正解ではなく、自分が心地よく感じるか、疲れが和らいでいるかを丁寧に観察することが重要です。脳科学的にも、自分にとって快適な体験は報酬系を活性化し、ストレスを和らげます。感情や体調の変化を言語化・記録することで、自分に合った休み方を見つけやすくなります。


種市 摂子 医師(日本精神神経学会専門医・指導医)

香川大学医学部、名古屋大学医学部大学院卒業。救急医療、脳神経外科診療、睡眠診療、精神科診療などを経て、予防医療を目的に、2008年より産業医サービス提供開始。これまでに、楽天株式会社をはじめ、IT企業、ベンチャー企業、IPOを目指す企業を中心に、650事業所以上を支援、ハラスメントゼロ・休職者ゼロのカスタマーサクセスにつなげている。日本精神神経学会専門医・指導医。Well-being向上委員会委員、日本スポーツ精神医学会会員、日本精神神経学会(精神保健に関する委員会委員)、健康経営アドバイザー、睡眠衛生コンサルタント、ストレングスファインダー認定コーチ、日本産業精神保健学会優秀賞、T-PEC優秀専門医。


引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より

※記事内容は執筆時点のものです。
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