糖尿病に効果的な「有酸素運動」のメリットとおすすめの方法をご紹介
糖尿病患者にとって効果的な運動の1つに「有酸素運動」があります。有酸素運動は糖尿病の合併症の進行予防や発症リスクの低下にも効果的である可能性が示されています。明日から実践できる具体的な有酸素運動の方法や注意点について解説します。
糖尿病と有酸素運動の関係
Q. そもそも有酸素運動とは、どのような運動のことを言うのですか?
A. 有酸素運動は、長時間継続しておこなえる運動を指します。具体的な有酸素運動の例としては、「ウォーキング」「ジョギング」「サイクリング」「水泳」などが挙げられます。
Q. 有酸素運動が糖尿病の進行や合併症に与える影響について教えてください。
A. 血糖の良好なコントロールが、糖尿病による合併症の発症および進行予防のために最も重要とされています。運動をおこなうと、筋肉がエネルギーとして血液中の糖を利用することで血糖値を低下させます。また、運動は内臓などに溜まった脂肪などを減らすることでインスリン抵抗性(インスリンの効きづらさ)を改善します。これらの改善によって、体内で血糖値を下げる効率が良くなるのです。有酸素運動は脂肪燃焼や脂肪の蓄積によるインスリン抵抗性の改善に対して効果的であり、良好な血糖コントロールによって糖尿病による合併症の発症および進行を予防する可能性があります。
Q. 有酸素運動が糖尿病の予防に効果的である理由について教えてください。
A. 2型糖尿病は、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性によって、体内でインスリンがうまく使われないことで発症します。そして、血液内の糖の多くは筋肉で利用されます。有酸素運動は全身の筋肉を利用するため、多くの糖がエネルギーとして利用されるようになります。また、内臓や筋肉に溜まった脂肪などは、インスリン抵抗性を引き起こします。運動を継続すると、脂肪を減らすことでインスリン抵抗性を改善させます。したがって、有酸素運動によるこれらの働きによって、2型糖尿病の発症リスクを下げると言われています。
有効な有酸素運動の方法
Q. 糖尿病患者に有効な有酸素運動には、どのような方法がありますか?
A. ウォーキングやジョギングなどがあります。ウォーキングは、機器や場所を選ばずに実施できるため、比較的気軽に始めやすいと思います。また、時間やペースも自身で調整しやすいため、運動が苦手な人でも始めやすいことが特徴です。ウォーキングで物足りない人は、ジョギングにするなど運動の強さを調整するといいでしょう。
Q. ほかにもありますか?
A. 機器を使用する有酸素運動として、エルゴメーター(固定式の自転車運動機器)やランニングマシンなどがあります。これらは機器を使用するため自費での購入、もしくは運動施設での実施となるため、運動を始めるまでに少しハードルがあります。一方で、屋内で実施可能なため天候や気温に左右されず実施可能なことや、モチベーションが上がりやすいという特徴があります。そのほかには、水泳やサイクリングなども有酸素運動としておすすめです。
Q. 糖尿病の人における有酸素運動の効果的な強度や頻度はありますか?
A. 有酸素運動は、自覚的に“ややきつい”くらいの強さで、週に3〜5回おこなうことが推奨されています。“ややきつい” くらいの強さだとわかりづらい人は、「隣の人と話をしながらできる程度」「背中に汗が滲む程度」というのも目安の1つです。
Q. 糖尿病の人における有酸素運動と食事の関係について教えてください。
A. 血糖値は主に食事を摂取することで上昇します。運動は、血糖値を急性的に低下させることから、食事で上がった血糖値を低下させるために、食後におこなうことが特に有効であるとされています。運動をおこなうことで酸素やエネルギーを筋肉に供給するために、筋肉に血液を回すように消化器系を含む臓器の血流を減らすように体が働きます。食後すぐに運動をしてしまうと、食べ物の消化や栄養の吸収のために必要な血流が筋肉に回ってしまうので、食後30分は時間を空ける必要があり、食後30分〜2時間の間に運動をすることが最適とされています。
有酸素運動で気をつけるべきこととは
Q. 有酸素運動を始める前にするべき準備や医療従事者への相談について教えてください。
A. 有酸素運動は長時間の運動が効果的であるため、季節や気温に関わらず多くの汗が出ます。そのため、脱水への対処として、暑い日は特に水分補給の準備が必要です。また、ウォーキングをおこなう場合には、歩きやすい靴の準備も必要です。靴のサイズや軽さはもちろんですが、つま先が上がっていることや、かかとに緩衝材(ゲルやエアー)の入っている靴を選ぶこともポイントです。
Q. ほかにも、知っておいた方がいいことはありますか?
A. 機器を使用する場合には、機器の購入はもちろん屋内の置き場所を検討(広さ、エアコンがある、換気する窓があるなど)しておくことも必要です。そのほか、糖尿病による合併症がある場合や服薬している薬によって注意点が異なるため、どの程度の運動を実施していいのかなどは医療従事者に相談する必要があります。
Q. 糖尿病の人が有酸素運動をする際の注意点や中断すべきタイミングなどについて教えてください。
A. 有酸素運動は全身の筋肉を使う運動であるため、筋肉での糖の利用によって血糖値が低下します。そのため、血糖値が下がりすぎてしまう「低血糖」に注意が必要です。低血糖の際には、空腹感、あくび、めまい、発汗(冷や汗)、動悸(頻脈)、ふるえ、顔面蒼白などの症状が出ます。したがって、これらの症状が出現したり、「あれ、なんかおかしいな?」といった違和感があったりすれば、対処をするために有酸素運動をいったん中断して、ブドウ糖やジュースなどで糖分を補給してください。
Q. 有酸素運動をしてはいけない条件や覚えておくべき禁忌事項はありますか?
A. 低血糖は、食事・服薬・運動によって起こる体内の働きのタイミングが悪いことがきっかけで起こります。また、糖尿病の薬の中でも、体内に直接インスリンを注入するインスリン製剤や、経口摂取薬(口から摂取する薬)のSU薬とグリニド薬は、すぐに血糖値を低下させます。さらに、運動は筋肉が動くときにエネルギーとして糖を利用するため、血糖値を低下させます。これらの作用のタイミングが悪いことがきっかけで低血糖になります。そのため、これらの薬剤を服薬している中で「食事をせずに運動をする」といったことがないよう注意する必要があります。
相澤 郁也(理学療法士)
2015年、国家公務員共済組合連合会吉島病院に就職し臨床に従事。2020年、千葉の三咲内科クリニックに招聘。現在は糖尿病患者の運動指導をおこない、糖尿病の発症・重症化予防に貢献。糖尿病に関する多くの研究業績をもつ。2022年、広島大学大学院医歯薬保健学研究科保健学専攻博士課程前期修了。日本糖尿病療養指導士、代謝認定理学療法士、日本糖尿病理学療法学会広報委員会委員、全国臨床糖尿病医会関東・北日本コメディカルの会世話人、千葉県糖尿病対策推進会議世話人。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
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