糖尿病予防に適した運動とは?
健康診断で糖尿病予備軍と判断され、医師から「運動不足です」「体を動かしてください」と指導されたことはありませんか?でも、どれくらいの運動が適しているのでしょうか?そこで、今回は糖尿病を予防するためにどんな運動を、どのくらいすればよいのかについて、医学博士でありウォーキングの専門家でもある青栁幸利先生にお話しを伺いました。
なぜ運動が必要なのか?
糖尿病とは、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が慢性的に高くなってしまう病気のことです。糖尿病には1型と2型があり、日本では9割以上が2型にあてはまります。これは運動不足や肥満など生活習慣が原因として挙げられるため、まったく運動をしない生活をしていると2型糖尿病になりやすくなります。
健康体では、膵臓から血糖を下げるインスリンが分泌されます。このインスリンの働きで、血液中のブドウ糖は、細胞内に取り入れられてエネルギー源として利用されます。
糖尿病になるとこのインスリンが十分に作られなかったり、その働きが低下したりします。すると血液中のブドウ糖とインスリンのバランスが崩れて、血液中のブドウ糖がエネルギー源に利用されず、血糖値が高くなってしまうのです。
運動をすることで、ブドウ糖がエネルギー源として消費されるので血糖値が下がりやすくなります。また、肥満を解消する効果も期待できます。このように糖尿病と運動には深い関係があるのです。
ウォーキングで糖尿病が予防できる?
では、糖尿病を予防するためにはどんな運動がいいのでしょうか。おすすめはウォーキングです。お金や場所、時間を選ばず簡単に取り組める運動です。
ある1つの結果があります。「中之条研究※」により「1日8,000歩・速歩き20分」で糖尿病の予防効果があることが分かりました。この研究の結果で「1日8,000歩・速歩き20分」している人は、それ以下の活動量の人に比べて、糖尿病の発生率が低かったのです。また、血糖値が高い人でも、「1日8000歩・速歩き20分」を実践することで、血糖値が下がるケースもたくさん見られました。
※「中之条研究」とは、群馬県中之条町に住んでいる65歳以上の住民5,000人を対象に、15年以上にわたり身体活動と病気の関係を調査した研究。
大事なのはウォーキングの「量」と「質」
「1日8,000歩」だけでなく、「速歩き20分」だけでもなく、「1日8000歩・速歩き20分」の組み合わせが重要なポイントです。これは、運動を「量」と「質」に分けた考え方がもとになっています。ウォーキングでは、「量」が1日の歩数で、「質」は運動強度となります。運動強度といっても少し難しいかもしれませんが、8,000歩の中で20分間は中強度の強さの速歩きを取り入れましょう、ということです。
運動強度には「低強度」「中強度」「高強度」があります。
・低強度…簡単な家事、ゆっくりとした散歩
・中強度…速歩き、犬の散歩、山歩き
・高強度…ジョギング、ジャンプ
このうち、健康にもっとも適しているのが、「中強度」です。
8,000歩、10,000歩歩いたとしても、その中に20分間の中強度の運動がないと、糖尿病を予防するための運動としては効果が低くなってしまうのです。
中程度のウォーキングってどれくらい?
では、糖尿病を予防するための中強度の速歩きとは、一体どのような歩き方なのでしょうか?イメージとしては、「なんとか会話できるぐらいの速歩き」です。鼻歌が歌えるくらいののんびりした散歩は、運動の「質」として弱いといえます。逆に、会話ができないくらいの速さで歩いてしまうと、強すぎることになります。
中程度の運動を具体的な数値にすると、自分の最大酸素摂取量の40%~60%の酸素を取り込める状態です。最大酸素摂取量はジムなどでも計測することが可能ですが、そこまでせずとも、「なんとか会話できる(でも歌うのは無理かな)ぐらいの速歩き」を目安にすれば十分でしょう。
実際にウォーキングをされている方で、「うっすら汗ばむ程度」というのを目安にしている方もいますが、汗は体質や季節によっても変わってくるので基準にするのはおすすめできません。
運動不足なら1日4,000歩・速歩き5分から
この「1日8,000歩・速歩き20分」は、特別にウォーキング時間を設けて、その時間帯だけで達成する必要はありません。1日24時間の中で、通勤や家事の時間も入れながら積み重ねていけばいいのです。最近では、運動強度まで測れる歩数計もありますので、常に身に付けていれば、日常生活での運動量も測定できます。普段の生活で足りない分をウォーキングで補っていくという意識で十分です。
普段運動しない人がいきなり「1日8,000歩・速歩き20分」は難しいかもしれません。足りない歩数や速歩きの時間は、徐々に増やしていくといいでしょう。ペースとしては、2ヶ月かけて2,000歩ずつ増やしてみてはいかがでしょうか。たとえば、「1日4,000歩・速歩き5分」なら、2ヶ月過ぎたら「1日6,000歩・速歩き10分」、さらに2ヶ月かけて「1日8,000歩・速歩き20分」にしていくという感じです。生活習慣を定着させながら少しずつ歩数や運動強度を上げていきましょう。
糖尿病予防にはウォーキングがおすすめです。いつでもどこでもできる簡単で効果的な方法です。また、ウォーキングは糖尿病だけではなく、他の病気も予防できることが分かっています。1日8000歩・速歩き20分を目指して、運動する習慣をつけられるように取り組んでみましょう!
医学博士 / 青柳幸利
1962年 群馬県中之条町生まれ 群馬県中之条町に住む65歳以上の全住民5,000人を対象に、十数年にもわたり、身体活動と病気の予防の関係についての調査(中之条研究)を実施。 高齢者の運動処方ガイドラインの作成に関する研究に従事し、様々な国家的、国際的プロジェクトに主要メンバーとして携わる。
医学博士(筑波大学卒業、トロント大学大学院医学系研究科博士課程修了)
東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム 副部長
引用:「+healthcare」より