レントゲンで「異常なし」の膝・関節の痛み… 原因や治療法、費用目安を医師が解説
レントゲン検査をしても、何も異常が見つからないのに膝や関節が痛い…。そんな体験をしたことがある人も多いのでは? もしかしたら、滑膜や脂肪体が原因かもしれません。
「レントゲン検査をしても異常がない、膝や関節の痛み」とは?
Q. 膝などの関節に痛みがあるとき、レントゲン検査をしても原因がわからないことがあります。それはなぜですか?
A. レントゲン検査は主に骨の大きさ、形状、位置などに問題がないか確認することができる検査です。たとえば骨折などの外傷があればレントゲン検査で原因を見つけることができますが、炎症が痛みの原因となっている場合には発見することはできません。そのため、レントゲン検査をしても異常が見つからないことがあるのです。
Q. レントゲン検査では、炎症はわからないということですね。
A. はい。膝が痛くなる原因に軟骨のすり減りが挙げられますが、膝が痛くなり始めるのは大体40代や50代で、その頃にはまだ軟骨がすり減っておらず、最初は膝に炎症が起きていることがほとんどです。そのためレントゲン検査をしても「異常なし」と言われるのです。
Q. 痛みの原因となる炎症には、どのようなものがあるのですか?
A. たとえば、滑膜の炎症が痛みの原因となっている場合です。滑膜とは、人間の関節内にある組織の一部のことをいいます。そもそも関節は骨と骨をつなぐ連結部分のことをいい、骨の表面は軟骨という水分の多い組織で覆われています。そして、関節は関節包という袋に包まれており、この関節包の内側や骨の表面にある薄い組織のことを滑膜といいます。
Q. 滑膜は、関節の内部組織なのですね。
A. はい。滑膜は滑液という液体を分泌し、関節の内部を満たしています。この滑液は軟骨に栄養を供給したり、骨が滑らかに動くように潤滑油の役割を担ったりしているのですが、実はこの滑膜が炎症を起こす原因となることがあるのです。
滑膜が痛みの原因になる仕組み
Q. 滑膜が痛みの原因になるとはどういうことですか?
A. 滑膜が炎症を起こすと、滑膜がどんどん腫れ上がって分厚くなります。この滑膜にはたくさんの神経が分布しており、滑膜が分厚くなることで神経も増殖します。この滑膜に炎症が起きると炎症性サイトカインなど、痛みを引き起こす物質がたくさん作られ、神経を繰り返し刺激します。これにより痛みが生じるのです。
Q. なるほど、そういう仕組みなのですね。
A. 炎症性サイトカインは関節の変形も引き起こします。それにより、痛みはますます増幅します。
Q. 炎症が原因で痛みになるのですね。
A. また、滑膜には血管が豊富に分布していて、炎症が起きると異常な血管がたくさんつくられます。実は、人間の身体は「血管と神経が一緒になって伸びる」という基本ルールがあります。つまり、血管が増えれば神経も一緒になって増えるということ。そのため、余計に増えた神経から痛みの信号が脳に送られ、痛みを自覚するようになるのです。
Q. 神経が増えることで、痛みが生じるのですね。
A. はい、正常な神経と異なり、異常に増殖した神経はいびつな形をしていて、たとえば階段の昇り降りなど、普段ならどうということのない動作でも、痛みを生じさせてしまいます。
Q. 滑膜炎のほかにも、レントゲンに写らない痛みの原因はありますか?
A. そのほかにも脂肪体というものがあります。脂肪体もレントゲンでは写らないため、意外と見逃されていることが多いというのが実情です。
Q. 脂肪体とはなんですか?
A. 膝のお皿のすぐ下にあり、脂肪でできた部分です。クッションのような役割をしていて、Fat padとも呼ばれています。脂肪体は太っている、痩せているということに関係なく、誰もが持っています。
Q. 脂肪体がなぜ、痛みの原因になるのですか?
A. 最近になり、脂肪体のなかにはたくさんの神経線維が走っていること、そして、その周囲にはたくさんの血管があることがわかってきました。そのため、この脂肪体に炎症が生じると、神経線維が多いだけに、非常に強い痛みになります。
滑膜や脂肪体が原因の痛みはどう治療するのか?
Q. 滑膜や脂肪体が原因の場合、どのようにして治療するのですか?
A. こうした痛みは「異常な血管」によって引き起こされると考えられており、この「異常な血管」をモヤモヤ血管と呼んでいます。当院を例にすると、これに対しカテーテル治療を行うことで症状の改善を促しています。
Q. カテーテル治療で炎症による痛みが治るのですね。
A. はい。アメリカでは2022年、ドイツでは2023年に保険適用とされています。日本ではまだ自由診療ですが、今後は保険が適用になるのではないかと予測されています。
Q. どのような治療ですか?
A. 「運動器カテーテル治療」と呼ばれ、モヤモヤ血管のために開発された極めて細いカテーテル(細いチューブ)を使って薬剤を注入します。局所麻酔で行われ、治療時間は片膝30分くらいです。
Q. どのような仕組みになっているのですか?
A. 薬剤の粒子がモヤモヤ血管を詰まらせ、血管を撃退します。それにより、痛みの原因を消失させることができるのです。
Q. 費用の目安はどれくらいですか?
A. 自由診療となるため、医療機関によって異なります。また、治療をする部位によっても異なるので詳しくは医療機関にご相談ください。たとえば当院では、膝の痛みで片側治療の場合は29万5000円になります。
奥野 祐次(オクノクリニック東京表参道)
2006年3月、慶應義塾大学医学部卒業。放射線科医として血管内治療に従事したのち、大学院にて「病的血管新生」の研究を行い、博士号を取得。その後、江戸川病院で運動器疾患に対する血管内治療を専門とし、2014年4月に運動器カテーテルセンター センター長に就任。2017年10月に横浜にてOKUNO CLINICを開院。オクノクリニックの総院長就任。現在東京を中心に全国10院を運営。年間30回以上の講演に登壇。治療の認知と普及、指導のために、さまざまなメディア出演、論文執筆などの活動を展開。ヨーロッパの学会(CIRSE2023)にてインターベンショナル・ラジオロジーの進歩へ貢献した医師に贈られるAward of Excellence and Innovation in IR 2023を受賞。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
※記事内容は執筆時点のものです。
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