歯ぐきの痩せ・下がりを治す「根面被覆(こんめんひふく)」はご存じですか?


歯ぐきの痩せ・下がりを治す「根面被覆(こんめんひふく)」はご存じですか?

なんらかの原因で歯ぐきが下がると、「歯が長く見える」などの見た目の問題のほかに、知覚過敏やむし歯のリスクが高まります。この問題を解決する方法の1つが、今回ご紹介する「根面被覆(こんめんひふく)」という治療法です。根面被覆とはどのような治療なのか、そのメリットや注意点について解説します。

根面被覆とは? どんな人が、何のために必要な治療?

Q. 根面被覆とは、どんな治療なのでしょうか?

A. 簡単に説明すると、歯ぐきより上に露出した根面を覆う治療法です。根面とは歯の根っこ(歯根)の表面のことで、通常は歯ぐきに覆われて見えません。しかし、なんらかの原因で歯ぐきが下がってしまうと根面が表に出てきてしまい、これによって様々な歯科的な問題が生じていきます。このようなケースに対して、歯ぐきの位置や形を修復して露出した根面を覆い、保護するのが根面被覆という治療です。

Q. 根面が露出すると、具体的にどのような問題が生じるのでしょうか?

A. 1つは「歯が長く見える」などの見た目(審美面)の問題です。また、根面が表に出てしまうと「冷たいものや熱いものがしみる」といった、知覚過敏症状を引き起こすことがあります。私たちの歯はエナメル質という硬いバリアで守られていますが、根面にはエナメル質が存在しないため、露出すると外部の刺激や細菌の影響をダイレクトに受けてしまいます。そのため、知覚過敏のほかに「むし歯になりやすい」というリスクも生じ得ます。

Q. 歯ぐきが下がったことによる見た目の問題や知覚過敏症状、むし歯リスクなどの問題を解決する手段の1つが、根面被覆という治療なのですね。

A. はい。一方で、根面被覆は予防的な処置としておこなわれることもあります。患者さんの中には、今は特に問題がなくても、もともと歯ぐきや骨が薄いために歯肉退縮を起こしやすい人もいらっしゃいます。このような人に対して、歯肉を移植し歯ぐきの厚みを増やして今の状態をキープします。歯ぐきが下がる、または痩せるのを防ぐという効果も期待できます。

根面被覆ではどうやって根面を歯ぐきで覆う? 治療による痛み・治療期間はどのくらい?

Q. 根面被覆では実際に、どのような方法で歯ぐきの位置を改善していくのでしょうか?

A. 根面被覆の方法は多岐にわたり、歯ぐきや根面の露出具合によって選択する術式が異なります。大まかにわけると、「口内のほかの部分から歯ぐき(粘膜)を切り取って、それを露出面に移植する方法」と「歯ぐきを移動させて、露出面を覆う方法」の2つです。これらを単独でおこなうこともあれば、2つの治療法を組み合わせることもあります。

Q. 1つ目の「歯ぐきを切り取って移植する」とは、具体的にどこから切り取って移植するのですか?

A. 多くは上あご(口蓋)から粘膜を一部切り取って、それを歯ぐきが下がって根面が露出している部分に移植します。露出面の大きさに応じて移植する粘膜が取り出せる一方で、手術部位が2カ所になるため治療による負担が少し大きくなります。

Q. 上あごの切り取った部分は、きちんと元通りに戻るのでしょうか? その間、痛みはないのですか?

A. 期間は多少かかりますが、上あごの粘膜を切り取った部分は必ず元通りになるので、その点は心配しなくても大丈夫です。約1カ月で表面がしっかり覆われ、3カ月ほど経つと元の厚みまで戻ります。痛みに関して、切り取った直後はすり傷のような状態なので何かを食べるとしみたり、痛みを感じたりしやすいですが、それも1週間程度で落ち着きます。

Q. では、もう1つの「歯ぐきを移動させる」というのが、どういう方法なのか詳しく教えてください。

A. 歯肉退縮を起こしている周囲の歯ぐきを一部切り開いて上に引き上げる、あるいは横に移動させて露出面を覆い縫い合わせます。1~2歯の狭い範囲の症例に限られますが、歯ぐきを完全に切り取らないので治療の負担が少なく済みます。

Q. いずれの方法も、根面を覆った部分が治るのにどのくらいかかりますか?

A. 表面が治るのに約1カ月、歯ぐきが馴染んで綺麗になるまでには3カ月ほどかかります。歯磨きの目安で言うと、術後2週間くらいから柔らかい歯ブラシで磨いてもらい、術後1カ月で元の歯ブラシで磨いてもらうイメージです。

Q. 根面被覆を受けるにあたり、注意しておきたい点はありますか?

A. どの術式を選択するにしろ、肝心なのは歯ぐきが下がった原因を特定し、取り除くことです。「なぜ、そうなったのか?」という原因を取り除いておかないと、歯ぐきの位置や形が綺麗になっても、再び歯ぐきが下がってしまう可能性があります。また、歯肉退縮についてはその原因を改善・除去することで、根面被覆をしなくても歯ぐきが正常な状態に戻るケースもあります。したがって、まずは歯ぐきが下がった原因を特定し、その改善や除去に努めることが重要です。

そもそもなぜ、歯ぐきが下がってしまう? 歯肉退縮の原因・予防について

Q. 歯肉退縮が起こる原因を教えてください。

A. 1つは歯の磨き方です。硬い歯ブラシで磨く、あるいは強い力でゴシゴシ磨くとその刺激で歯ぐきが下がってしまうことがあります。また、歯周病も歯肉退縮を起こす要因の1つで、歯の周囲を囲む骨が溶けてしまうと、それにともなって歯ぐきも下がっていきます。そのほかに、歯ぎしりによって歯肉退縮を起こすこともあります。

Q. 歯ぎしりで歯ぐきが下がってしまうこともあるのですか?

A. 歯ぎしりによる力で歯が横に揺さぶられると、歯を支える骨が吸収されて、歯ぐきが下がりやすくなります。また、矯正治療も歯肉退縮を起こす要因となることがあり、とくに下の前歯に起こりやすい傾向があります。

Q. 以上のような原因を特定し、改善しておくことが根面被覆治療を成功させるカギになるわけですね。

A. はい。根面被覆では最初にこれらの原因を除去・改善しておくことが治療の条件と言えます。また、今は歯ぐきが下がっていないケースでも上記に心当たりがあれば、早めに改善しておくと歯肉退縮の予防につながります。

Q. 歯の磨き方やブラッシング圧は盲点となりやすいので、歯医者さんでチェックしてもらった方が良さそうです。

A. そうですね。自分に合わない歯ブラシの使用や過度な力のブラッシングは歯肉退縮を起こす引き金になります。むし歯・歯周病の予防をかねて定期的に歯医者さんに通いながら、自分にあった歯ブラシやブラッシング法などを指導してもらいましょう。


金子 潤平(かねこ歯科診療所)

大阪歯科大学卒業。その後、歯科医院で勤務医として経験を積む。2015年、兵庫県伊丹市に「かねこ歯科診療所」を開院。しっかり噛める歯と、それを支える口腔の環境整備、継続的な健康維持のためのメンテナンスプログラムをトータルで提供している。日本臨床歯周病学会認定医。日本歯周病学会、日本口腔インプラント学会の各会員。


引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より

※記事内容は執筆時点のものです。
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