「心房細動」の初期症状はご存じですか? 受診の目安・放置リスクも医師が解説!

現在、「心房細動」の患者数が増えています。心房細動を放置すると、脳梗塞などを引き起こすこともあり、命のリスクになる場合もあるそうです。一体、どのような症状に気をつければ、早期発見できるのでしょうか。
心房細動とは?
Q. まず、心房細動について教えてください。
A. 脈が異常に速くなったり遅くなったり、不規則になったりすることを「不整脈」と言い、心房細動は不整脈の一種です。心臓には心房と心室があり、血液は心房から心室、全身へと流れます。この心房内で異常な電気信号が発生して、収縮が無秩序に起きる状態が心房細動です。心房が痙攣(けいれん)したように、つまり細かく動くように見えるため、心房細動と呼ばれています。
Q. なぜ、心房細動が起きるのですか?
A. 心房細動が発症する大きな要因に、「加齢」があります。長年、働き続けた心臓はやがて疲弊してしまいます。そのため、心臓の機能が低下したり、心臓を動かすのに必要な電気信号を伝える組織が劣化したりしてしまいます。それにより、心房細動が起きるのです。
Q. 加齢による劣化とは、具体的にどういうことですか?
A. 赤ちゃんの肌はプルプルして弾力がありますよね。しかし、歳をとるとだんだん弾力が減ってきます。これは皮膚の線維成分が増えることによって生じる変化です。これと同じ変化が心臓にも起きていて、加齢とともに心臓の筋肉の間に線維成分が増えてきます。こうした変化を「線維化」と言い、これによって心臓内の電気の流れがスムーズでなくなり、不規則になるのです。
Q. 最近、心房細動の患者数が増えていると聞きましたが、それは高齢化によるものですか?
A. そのように考えられます。ある研究によると、健康診断時の心電図検査で心房細動がみられる確率は60代で1%、70代で2%、80代で3%であることがわかっています。加齢に伴って増えることが明らかですが、そのほかにも、「高血圧」「糖尿病」「肥満」などが発症に関わる、つまり発症確率を高めることも判明しています。
Q. いわゆる生活習慣病が関係しているのですね。
A. 正確に言えば「医療技術が進化したり病態の理解が進んだりしたおかげで、生活習慣病のコントロールが良くなったため、生活習慣病を持ったまま長生きする人が増えた」ということが、心房細動の患者数の増加に関係しているのではないかと思います。
Q. なぜ、それらの病気が心房細動の原因になるのですか?
A. 例えば、高血圧だと左心室の肥大が起こります。それにより左心房に負荷がかかり、線維化が進むため心房細動が起こりやすくなります。また、血糖値が高いことも心房の線維化に関係しています。
Q. そのほかにも、心房細動の原因になるものはありますか?
A. 「ストレス」「過労」「睡眠不足」「飲酒」「喫煙」「睡眠時無呼吸症候群」「甲状腺機能の異常」などが原因になることもあります。特に近年では、睡眠時無呼吸症候群と心房細動の関係が注目を集めており、合併する人が非常に多いことが判明しています。そのほかにも「心臓弁膜症」「心筋症」「虚血性心疾患」などが原因となることもあります。さらに、一部では遺伝性の心房細動があることもわかっています。
Q. 心房細動は高齢者に増えているということですが、なぜですか?
A. 繰り返しになりますが、加齢によって心房細動の発生のもととなる、線維化が進行するからです。しかし、高齢になってある日突然心房細動が発症するのではなく、実際はもっと前にその種は蒔かれているのです。40歳代から生活習慣病の発症が増えます。その頃から線維化が加速し、心房細動の芽が出始めているのです。心房細動の予防を考えれば、中高年の時期から健康を意識する必要があります。
心房細動の初期症状
Q. 心房細動を発症すると、どのような症状がみられるのですか?
A. 一般的に、心房細動の代表的な症状は「動悸」「息切れ」「めまい」です。ただし、表現は患者さんによって様々で「胸がドキドキする」「胸の不快感がある」「階段を登るのがきつい」などという声も聞かれます。
Q. 必ず症状が起きるのですか?
A. いいえ。じつは、症状が全くない無症候性のものも少なくありません。ある研究によると「発作性心房細動が起きたとき、自分の発作を全て感じられた人は全体の1/3、認知できる発作と認知できない発作が混在している人が1/3、全く感じられなかった人が1/3いた」ということがわかっています。そのため、症状がないからといって油断することはできません。
Q. 症状がないこともあるのは怖いですね。
A. 健康診断で心房細動が指摘された場合には、たとえ症状がなかったとしても一度は専門的に診てもらうことが必要です。もしかしたら甲状腺機能の異常や睡眠時無呼吸症候群などベースとなる疾患があり、それが原因となって気づかないうちに心房細動を発症しているのかもしれません。
Q. 医療機関ではどのような検査をおこなうのでしょうか?
A. まずは心電図検査をおこないます。一般に不整脈は、ちょうど不整脈が出現しているときに心電図検査をおこなわなければ、診断することができません。その一方、心房細動の場合、心房細動が出ていないときでも「この人は心房細動を起こしやすい」と判断できる特徴的な波形が出ていることもあります。そうした検査をおこない、心房細動かどうか、心房細動を起こしやすい状態かどうかを診断します。
Q. そのほかには、どのような検査をおこないますか?
A. 胸部X線検査や血液検査(甲状腺チェック)、心臓超音波検査、長時間心電図検査などをおこなうこともあります。特に心臓超音波検査では、左心房が拡大していれば、心房細動が起こりやすい状態であることが疑われます。そのほか、血圧値、睡眠時無呼吸症候群など、心房細動の危険因子をどれだけ持っているかについても必要に応じて調べます。
心房細動を放置するリスク
Q. 心房細動を放置するとどうなるのですか?
A. 心房細動そのものが突然死のリスクになることはほとんどありません。しかし、放置すると脳梗塞や心不全などが発生し、日常生活の質を大きく低下させたり、死亡に至ったりすることもあるので注意が必要です。
Q. なぜ、脳梗塞が起きるのですか?
A. 心房細動が起きると、心房が細かく痙攣したように震えた状態になります。すると心房の中で血液が澱んで、血栓が作られやすくなります。この血栓が血液の流れに乗って脳などへ達し、血管を詰まらせることがあるのです。心臓から出ていく血液の2割程度は脳に行く上、心臓→大動脈→脳は比較的まっすぐな経路であるため、特に脳血管を詰めることが多いと考えられています。
Q. 心臓で作られた血栓が脳へ届くことはあるのでしょうか?
A. 心臓内に血栓ができて、それが流れていって起こる脳梗塞を「心原性脳梗塞」と言い、脳梗塞の中でも非常に重症度が高いものとして知られています。というのも、心臓で作られる血栓は比較的大きいため、太くて重要な血管を詰まらせてしまうからです。心原性脳梗塞は元・巨人軍監督の長嶋茂雄さんが倒れたことでも知られている疾患です。幸い一命を取り留めたとしても、寝たきりや要介護になるリスクも高いとされています。こうした重大な疾患を招かないためにも、心房細動が疑われる場合には早めの対処が必要です。

奥山 裕司(おくやまクリニック)
大阪大学医学部卒業。その後、大阪警察病院(現・大阪けいさつ病院)、大阪府立急性期・総合医療センター(現・大阪急性期・総合医療センター)、大阪大学医学部附属病院循環器内科准教授などを経て、2018年、大阪府和泉市に「おくやまクリニック」を開院。日本内科学会専門医、日本循環器学会専門医、日本不整脈心電学会専門医。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
※記事内容は執筆時点のものです。
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