「高血圧は生活習慣の見直しで改善できる」薬を使わずに血圧を下げる方法を専門医が解説
「高血圧」は日本人が最もかかりやすい病気と言われており、患者数は4300万人にのぼります。しかし、降圧目標まできちんとコントロールしている患者さんは、わずか27%です。高血圧自体は自覚症状に乏しいため「薬は嫌だから様子を見よう」と考えてしまう人が多いのでしょう。
高血圧の現状
Q. 高血圧の患者さんは、どのくらいいるのでしょうか?
A. 高血圧の患者さんは約4300万人いると推定されており、日本人の中で最も患者数の多い病気とされています。単純計算で3人に1人と、非常に頻度が高いことがわかります。若いうちは大丈夫だと思っている人も多いようですが、30代の5人に1人は既に高血圧を発症しているという報告もあり、決して高齢者だけの病気ではないのです。諸外国と比べて、日本の食文化は塩分が多い傾向にあります。高血圧を防ぐには、正しい知識と若い頃からの対策が必要不可欠です。
Q. 血圧は140/90mmHgを超えなければ問題ないですか?
A.
一般的には、診察室で測定した血圧が140/90mmHgを超えると高血圧と診断されます。ただ、高血圧に関する研究は日夜、世界中でおこなわれており、最新の結果が出るたびに高血圧の管理基準が変更されています。実際に最新版である「高血圧ガイドライン2019(※)」でも、血圧の分類基準が大きく変更されているのです。これまでは140/90mmHg未満を「正常域血圧」と分類していましたが、120~139/80~89mmHgの血圧でも脳心血管病リスクが高まることが分かってきたため、今では120/80mmHg未満のみを「正常血圧」と定義しています。
※日本高血圧学会「高血圧ガイドライン2019」
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_hp.pdf
Q. 先生の考える日本における高血圧診療の問題点を教えてください。
A. 高血圧は脳卒中や心筋梗塞による死亡の最大の原因であり、国民病とも呼ばれています。先述したとおり約4300万人の患者さんがいますが、降圧目標を達成しているのはわずか1200万人(約27%)です。残りの3100万人は血圧が140/90mmHg以上であり、なかでも1800万人(44%)は治療すら受けていない状況です。リスクがあることは十分に知られており、診断・治療法にも進歩がみられ、薬もすぐに使える環境であるにも関わらず、高血圧への対策は未だ不十分であり「高血圧パラドックス」と呼ばれる大きな問題となっています。
降圧効果のある非薬物療法
Q. 「ダイエットで血圧が下がる」と聞いたことがあります。本当でしょうか?
A. これまでの報告によると、1kgの減量で収縮期血圧(上の血圧)・拡張期血圧(下の血圧)がそれぞれ約1mmHg低下することがわかっています。日本人肥満者を対象にした研究でも、「3%以上減量に成功すると血圧が下がる」ことが確認されました。生活習慣を改善することは高血圧の予防という観点からも非常に大切です。我が国では「BMI≧25」を肥満と定義しており、30~60代男性の30%以上、50代以降の女性の20%以上が肥満者です。肥満の人が必ずしも高血圧を発症するわけではありませんが、肥満でない人と比べると2~3倍も高血圧発症リスクが高くなるため要注意です。
Q. 運動でも血圧は下がりますか?
A. はい。有酸素運動の降圧効果については多くの研究で有効性が示されています。「早歩きやステップ運動、スロージョギングなどは運動直後から収縮期血圧が約5mmHg低下し、その後22時間に渡って降圧効果が持続した」と報告されています。アメリカスポーツ医学会からも、1回につき10分以上の運動を合計で1日40分以上おこなうよう勧告されていますし、我が国でも毎日40~60分の身体活動をおこなうことが推奨されています。ただし、収縮期血圧が180mmHgを超える人や脳心血管病のある人が運動する場合は危険を伴いますので、主治医の先生と相談してからおこないましょう。
Q. 飲酒と血圧の関係についてはいかがでしょうか?
A. 習慣的な飲酒は、血圧上昇の原因の1つです。高血圧のみならず、脳卒中や睡眠時無呼吸症候群に加えてがんの原因にもなり、死亡率を高めることも知られています。アルコールを摂取すると一時的に血圧が低下しますが、長期的には上昇していきます。一方で、飲酒量を70%制限すると収縮期血圧が約3mmHg低下することも判明しています。高血圧の管理においては、エタノール換算で1日に男性20~30ml(日本酒1合、ビール500ml程度)、女性はその半分程度を上限とすることが推奨されています。また、お酒のつまみは塩辛いものが多いため、食塩の過剰摂取による血圧上昇も問題となります。
減塩の降圧効果
Q. なぜ、塩分を摂ると高血圧になるのですか?
A. 現時点で、食塩が血圧を上昇させるメカニズムは完全には解明されていませんが、血液量の増加が関係していると考えられています。みなさんも塩辛い食事を摂った後は、喉が渇いて水をたくさん飲んでしまうことがあると思います。体内の塩分濃度が高いと悪影響が生じるため、体は水分を摂取して正常な濃度に保とうとします。しかし、その水分摂取によって血液の量が増えるため血圧が上昇してしまうのです。このままの状態では生体にとって危険であるため、腎臓から水と塩を尿として排出しますが、腎臓が処理できないほどの塩分を摂取してしまうと、血圧を十分に下げることができず高血圧になってしまいます。
Q. 「減塩」をすると、どのくらい血圧が下がりますか?
A. 個人差はありますが、1日に1gの塩分制限で高血圧者の収縮期血圧は約1mmHg下がることがわかっています。日本人の1日の平均食塩摂取量は男性が10.8g、女性が9.1gですから、目標である6gを達成すると3~5mmHg程度の降圧が期待されます。イギリスでは政府主導で加工食品の塩分量を徐々に減らす政策をおこないました。成人1人あたりの食塩摂取量を5年間で9.5gから8.4gへ15%減らしたところ、収縮期血圧が平均で3mmHgも低下しました。さらに、同時期に脳卒中や心臓病で亡くなる人も40%も減少しました。減塩による降圧効果は3mmHgとわずかに思えますが、その効果は絶大であると言えるでしょう。
Q. 簡単にできる減塩方法を教えてください。
A. まずはご自身が「1日にどの程度の塩分を摂取しているのか」をチェックするところから始めましょう。加工食品には栄養成分表示が義務付けられており、必ず塩分含有量が記載されています。実際に記録をつけてみると、これまで無意識のうちに摂取していた塩分量に驚かれる人も多いと思います。現代の食生活では加工食品や調味料に含まれる「見えない塩分」からの食塩摂取が約7割を占めています。「食べる前に必ず塩分量を確認する」。たったこれだけのことですが、減塩の第一歩として極めて重要です。
高村 武之(あけぼの病院)
山梨大学医学部卒業。その後、山梨大学医学部附属病院第三内科、山梨県立中央病院腎臓内科に勤務。2020年より東京都町田市の「あけぼの病院腎臓内科」に勤務、2021年より腎臓内科副部長に就任。薬物療法のみならず、生活習慣改善や医療リテラシー向上にも積極的に取り組んでいる。医学博士。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本高血圧学会専門医、日本腎臓学会専門医・指導医、日本透析医学会専門医。山梨大学医学部非常勤講師。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
※記事内容は執筆時点のものです。
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