女性に多い「バセドウ病」「橋本病」のセルフチェック方法は? 甲状腺の病気・症状を医師が解説
バセドウ病や橋本病など、特に女性に多く見られる甲状腺の病気。しかし、甲状腺の病気にもいろいろあり、症状や原因はさまざまです。「こんな症状が見られたら要注意」「甲状腺の病気の原因は?」など甲状腺に関連する疑問について解説します。
そもそも甲状腺とはどこにあるどんな臓器? 甲状腺の病気・疾患は女性に多いって本当? 主な原因は?
Q. 甲状腺にはさまざまな疾患があると聞きました。そもそも甲状腺とはどこにあるのですか?
A. 甲状腺とは喉仏の下にある臓器のことで、ちょうど、蝶がはねを広げたような形をして気管に張り付いています。主な役割として、甲状腺ホルモンを分泌しています。
Q. 甲状腺ホルモンとはなんですか?
A. あまり知名度は高くないかもしれませんが、実は、甲状腺ホルモンは健康を維持するうえで重要な役割を果たしています。たとえば新陳代謝を促進したり、脈拍や体温を調節したり、自律神経の働きを整えたりするほか、子どもの成長や脳の働きを維持するためにも重要な役割を担っています。
Q. 甲状腺の疾患とは、どのようなものですか?
A. 一般的に知られているものとして甲状腺の機能が低下する疾患と、亢進(こうしん)する疾患があります。機能が低下すると甲状腺ホルモンの分泌量が低下しますし、反対に亢進するとホルモンの分泌量が過剰になります。前者の代表は「橋本病」、後者の代表が「バセドウ病」です
Q. 甲状腺の疾患は女性に多いと聞きましたが、本当ですか?
A. 確かに男性に比べて女性に多く発症します。研究によると、橋本病は男性の2倍以上、バセドウ病は男性の約5倍多く発症することがわかっています。
Q. なぜ、女性が多いのですか?
A. その理由は、まだ十分にわかっていません。しかし、橋本病やバセドウ病は自分の細胞を異物と勘違いして攻撃したり、臓器の働きを促進したりする自己免疫疾患が原因と考えられており、自己免疫疾患は女性に多く発症することから、橋本病やバセドウ病も女性の患者さんが多いのではないかと考えられています。
甲状腺の病気「バセドウ病」「橋本病」とは セルフチェック方法は? 眼球突出・顔つきの変化、暑がり、動悸の症状があったら注意?
Q. バセドウ病や橋本病を見分ける方法はありますか?
A. どちらも特徴として首元が腫れることがありますが、バセドウ病と橋本病では体に表れる症状や体感はまったく異なります。バセドウ病の場合、発汗が多くて暑がりになりますが、橋本病の場合は寒がりになり、冷えを感じることが多くなります。それからバセドウ病の場合は脈が速くなり、動悸がしたり、心臓がドキドキしたりすることがありますが、橋本病の場合は脈が遅くなります。
Q. ほかに見分ける方法は?
A. バセドウ病の場合はイライラして落ち着かなくなり、橋本病の場合は疲れやすく、無気力になることが多くなります。
Q. 外見も変わりますか?
A. 顔つきをチェックしてみてください。バセドウ病の場合、目が突き出しているように感じることがありますし、目が大きくなったと他人から指摘されることがあります。一方橋本病の場合、顔が浮腫んでいるように見えるかもしれません。
Q. バセドウ病と橋本病は、まったく正反対なのですね。
A. それからバセドウ病の場合は食欲が増し、食事量が増えるのにもかかわらず体重が減り、痩せることがあります。一方、橋本病の場合は、食事量は変わらなくても体重が増えることが多くなります。
Q. どちらも特徴的な症状が多いので、見分けがつきそうです。初期の頃からこうした症状が表れるのですか?
A. 初期の頃から症状が出ることもあるのですが、これらは更年期障害や自律神経失調症などと症状が似ているため、見過ごされてしまうことも少なくありません。橋本病は「無気力になる」「やる気が出ない」といった症状から、うつ病と診断されてしまうこともあります。しかし、甲状腺の疾患を放置すると心不全や動脈硬化などのリスクを高めることにつながってしまうため、気になる症状があったら早めに医師の診察を受けましょう。
甲状腺の病気の検査・治療法を解説 遺伝の可能性や男性の罹患、妊娠との関連についても教えて
Q. 甲状腺の病気が疑われる場合、どのような検査が行われるのですか?
A. まずは血液検査を行って、ホルモンの濃度を測定します。甲状腺ホルモンにはT3とT4という2つのホルモンがあり、そのほか脳下垂体から分泌されるホルモンの一種であるTSHというものも甲状腺ホルモンに深く関わっています。これらの濃度を測定し、甲状腺に異常があるかどうかを推測します。そのほか、超音波検査で甲状腺のしこりや腫れを観察します。
Q. 橋本病やバセドウ病であることがわかったら、どのような治療が行われるのですか?
A. 橋本病の場合、甲状腺機能が低下していないこともあるので、その場合は経過観察になります。甲状腺機能が低下していることが確認されたら甲状腺ホルモン剤を内服します。バセドウ病の場合には、甲状腺ホルモンの分泌を抑制する薬の内服が行われますが、甲状腺の腫れが大きかったり、薬の効果があまり期待できなかったりする場合は、外科的に甲状腺を切除する場合もあります。また、放射線を発するヨードを飲み、甲状腺の機能を低下させるという治療法もあります。
Q. 甲状腺の疾患は遺伝の可能性もあるのですか?
A. 一般的に、甲状腺の疾患は遺伝が関係しているとされています。たとえば、母親がバセドウ病の場合、娘もバセドウ病になる確率は通常の6〜10倍とされています。しかし、遺伝だけが発症の要因ではありません。遺伝的な要因に加え、感染やストレスなど、環境要因も発症に大きく関係していると考えられています。
Q. 男性でも発症する可能性があるということですか?
A. 女性に多いことは確かですが、男性でも発症するリスクはあります。男性の場合、バセドウ病、橋本病ともに男性不妊の原因になるので、もし気になる症状があれば早めに診察を受けましょう。
Q. 妊娠にも関係するのですね。
A. 女性の場合、橋本病でもバセドウ病でも妊娠出産は可能ですが、妊娠や出産により、甲状腺機能が変動することがあります。もし甲状腺の疾患を抱えている場合は、必ず専門医の診察を受け、治療を継続するようにしましょう。バセドウ病の場合、治療が十分に行われていないと流産、早産、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)などのリスクが増すともいわれています。
山村 聡(Clinic Le GINZA 銀座有楽町内科)
九州大学医学部卒。医療法人高邦会高木病院 臨床研修。昭和大学糖尿病・代謝・内分泌内科助教、医療法人慶仁会城山病院糖尿病・代謝・内分泌内科など、複数の病院で糖尿病・内分泌診療に従事。医療法人社団同仁会診療所Clinic Le GINZA 銀座有楽町内科理事長・院長。日本内科学会 認定内科医、日本糖尿病学会、日本内分泌学会、日本甲状腺学会などに所属。
引用:「Medical DOC(メディカルドック) - 医療メディア」より
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