若々しい歩き方とは?④ 〜生活の癖編〜 (左右差)

若々しい歩き方コラムも第4回目になりました。今回のお話は、「左右差」です。歩き方の左右差とは、リハビリテーションの話ですか?と思われた方もいるかもしれません。確かにリハビリテーションにおいて歩行の左右差に関する研究は多くあります。
花王は歩行基礎力測定会(※1)というサービス開発を通じて、健康な人の歩行データをたくさん集めてきました。その結果、特にリハビリ中でもない一般の方でも左右差は存在することが分かってきました。今回はこの、「左右差」についてお話ししていこうと思います。
「左右差」とは?
皆さんが良く知っている歩幅にも左右差があることをご存じでしょうか。歩幅は、足がついてもう一方の次の足が着いた場所までの進行方向への直線距離である、と第2回目のコラムでお話ししました。
では、左足がついてから次の右足までを計測する”左から右”の歩幅と、右足がついてから次の左足までを計測する”右から左”の歩幅、は同じ歩幅と言えそうでしょうか。もちろんぴったり同じ方もいますが、きっと5 ㎜程度の差があると思います。通常は左右の歩幅を平均して、その人の歩幅の代表として解析しています。

この差を、誤差ではなく目標として捉えたのがリハビリテーションの歩行解析になります。歩幅を例にとりますが、怪我などで機能が低下した側を患側、正常な機能を残している側を健側と呼ぶことがあります。左右のどちらの歩幅が健側か患側かはその状況により異なりますので、このような呼び方で左右を分けています。施術が片方の歩幅の機能を低下させ、結果として歩幅の左右差が拡大した場合には、リハビリテーションの効果を示すために、広い側の歩幅を目標に、狭い側の歩幅を広げて近づけていくことを目指すのが一般的です。もちろん5 ㎜などという小さな差ではありませんので、計測ではない専門家による目視で判断されています。

一般の方はどうでしょうか?実は、歩幅に限らず、今までコラムでお話ししてきた歩隔(ほかく)やつま先角度、歩行角度などの歩行指標にも左右差があります。ただし、目視で分かる場合のほうが少ない微妙な差です。
今までたくさんの歩行データを集めてみた結果、面白いことが分かってきました。
例えば、つま先角度は左足よりも右足のほうが平均で6 度も外側を向く人が多かった、という発見がありました(※2)。このことは、第3回目のコラムから、右足を支えている時にバランス能力を必要とする動きが多い、または右足を支える側でバランス能力が低い、のどちらかを示しています。いずれにせよ歩行にも利き足があり、個人の特徴と言えそうです。
さらに歩幅、歩隔、つま先角度や歩行角度の各指標の左右差は加齢で大きくなります。
「左右差」と生活の癖
このような左右差は気にしなくても良いのでしょうか?これについては、一般的な生活の癖というだけではない、ということがいくつかの研究から明らかになっています。
例えば、尿失禁(※3)や転倒(※4)など、下肢の筋力低下と関連する症状において中程度の症状(失禁や転倒の頻度などで軽度、中程度、重症と分類)を有している場合と有していない場合を比較すると、速度や歩幅の低下に加えて、歩行角度の左右差も大きくなっていることが分かりました。
歩行角度は歩幅と歩隔で計算されること第3回目のコラムで説明いたしましたが、結果、左右の歩行時の支持基底面による安定性に左右差が生じている可能性が高いと考えられます。
これらの左右差は、生活動作や過去のスポーツ、既往歴に起因すると考えられますが、長年の人生による身体への左右差の蓄積は複雑なため、明確な研究成果は示されておりません。
一方で、関与する関節の筋力差は重要と考えられています(※5)。歩幅の左右差と左右の筋力を調査した研究では、歩幅が広い側は狭い側と比較して、股関節を外に開く筋力、膝関節を伸ばす筋力、足関節を曲げる筋力が強いことが示されています。
逆に考えると歩幅が狭い側はこれらの筋力が弱っていることが考えられます。左右差が加齢で増えていくことを考えていくと、個人によって左右のどちらの筋力が先に衰えるかは個人差があると予想されます。左右差が大きい場合は、生活を見直すか、左右のトレーニング量を調節することが良いかもしれません。
さて、これらの左右差についても『Walk Coordinator』の技術を用いて、スマホ1台で解析できる歩行年齢測定ミッションを用意しています(※6)。今までの計3回のコラムでは取り上げた指標に対して歩き方を自分の意志でコントロールしないよう注意をしてきました。
今回は、そもそも自分の歩き方に左右差がないと思っている人がほとんどかと思いますが、全ての左右差を均等にして歩くのは意識下で出来ることではありません。
とはいえ、左右差を気にして歩くといつもの歩きが再現できませんので、左右差は気にせず、いつもと同じように歩いてみてください。『Walk Coordinator』での歩幅の左右差の標準範囲は1.98cmになります。左右差があるのか試してみましょう。
※歩行測定ミッションはキャンペーン期間内の毎週金曜日~日曜日に配信されますのでご留意ください。
執筆者の紹介
ヒューマンヘルスケア研究所
須藤 元喜
2001年、花王入社、基礎研究部門を経て、商品開発部門に移り、ヘルスケア商品の開発に従事。今まで、メリーズ、リリーフ、Sooクールローション、リファインなどの商品開発に関わったほか、歩行基礎力測定、ホコタッチなどの歩行モニタリングサービス開発を手掛ける。
(※1)サービスの内容 | 歩行基礎力測定サービス (hocotouch.jp)
(※2)シート式圧力センサーを用いて計測した歩容左右差による年齢の推定 (jst.go.jp)
(※3)都市部在住高齢女性の膝痛,尿失禁,転倒に関連する歩行要因 (jst.go.jp)
(※4)転倒リスクと歩行との関連 (jst.go.jp)
(※5)歩幅に関与する下肢筋力の左右差 | CiNii Research
(※6)花王 | 関節の動きを解析する「歩行メカニクスモニタリング技術」を確立 スマホをお腹に抱えて8歩歩くだけで歩行の姿勢や癖を見える化 (kao.com)

